星々の輝きを君に
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アークエンジェルの捜索、とは言っても、相手もバカではない――いや、カナードが乗っている以上、バカであって貰っては困る――おそらくデブリへと隠れているのだろう。その痕跡を見いだすことも難しい。
しかし、逆に言えばそれは戦闘がないという事でもある。
「キラにとっては、今の状態の方がいいのか」
戦闘がないというかとは、彼女を危険にさらさなくてすむと言うことだ。
何よりも、シフトさえ見直せば、自分かディアッカのどちらかが確実に彼女の傍にいられる。
それだけでもキラにとっては安心できることらしい。笑顔が増えてきたような気がする。
「もっとも、ニコルは要注意だがな」
ぼそっとこう呟く。可愛い顔をして実は腹黒い。そんな彼も、キラの身の上には同情しているようだ。だから、それに関しては心配していない。
問題なのは、彼の腹黒さがキラに移らないか……と言うことだ。
「……とりあえず、大丈夫、ということにしておこう」
ニコルもとりあえず気をつけているようだし、とは思う。それでも不安なのだ。
「何がですか?」
その時だ。不意に背後から声がかけられる。
「ニコル?」
いったい、いつからそこにいたのだろうか。そう思いながら振り向く。
「僕がどうして『要注意』なんでしょうか」
満面の笑みと共に彼はそう問いかけてくる。
「キラの趣味がハッキングだからだ」
とっさに、イザークはこう言い返した。
「ついでに、お前は今、あれこれやっているだろうが」
開き直ったかのように言葉を重ねる。
「……ひょっとして、キラさんを巻き込むとか考えていました?」
「既に一度、あいつは巻き込まれているだろうが」
アルテミスの一件で、とイザークは言う。もっとも、これはキラの保護者の一人であるラウの許可の元に行われたものだ。だから、問題はない。少なくとも今のところは、だ。
「今のところ、それを知っているのは俺たちとブリッジクルーだけだ。隊長もそのメンバーは信頼している、ということだろう」
だが、と彼は続ける。
「他の連中に知られると厄介なことになる」
最悪、キラはオーブに帰れなくなるかもしれない。あちらにご両親がいるのに、だ。
「確かにそれはまずいですね」
キラがオーブに帰れなくなるは、とニコルも頷く。
「だから、お前が要注意だったんだよ」
情報収集となると、時には理性が飛ぶだろう? とイザークは言う。
「……そう言うことでしたら、納得しました」
そう言われることも妥協しよう、と彼は続ける。
「ですが……なら、キラさんの周囲に近づく人間には今まで以上に注意しないといけないですね」
さて、どうしようか……と彼は低い声で付け加えた。
「ニコル……任務に支障が出ない程度にしておけよ」
とりあえず、とため息と共に言う。
「わかっています。キラさんに嫌われたくありませんから」
彼がこう言って笑ったときだ。
「お、ここにいたな」
言葉とともにディアッカが顔を出す。もちろん、その傍にはキラがくっついていた。
「あぁ、交代の時間ですか」
それだけでディアッカが何をしたいのかわかってしまうあたり、自分たちもなれてきていると言うことなのかもしれない。
「あぁ、すまないが、頼むな」
ディアッカが口調と共に言う。
「気にするな。キラと話をしているのは楽しいからな」
イザークはそう言って笑った。そのまま、視線をキラに移すと彼女を手招く。そうすれば、素直に近づいてくる。
「キラ。いいこだからイザークにくっついていろよ」
ディアッカが彼女の背中に向かってこういった。
「ディ! 僕はそこまで子どもじゃない!」
「わかっているけど、お前の方向音痴が怖くてな、俺は」
それでケガをしたと知られたら、間違いなく自分が半殺しにされる……と彼は真顔で付け加える。もちろん『誰に』とは言わなくても、キラにもわかったのだろう。
「……わかった。そう言うことなら、妥協する」
ため息とともにこういった。
「そうしてくれ。あの人達に勝てる自信なんて、全然ないからな」
ディアッカは苦笑を深めるとキラの頭に手を置く。
「というわけで、いいこにしていろよ」
言葉とともに、彼はそう言い返す。そして、そのまま通路へと戻っていく。
「一つしか違わないのに、子ども扱いして」
そんな彼に向かってキラは文句を投げつける。その様子がかわいらしくて、イザークは思わず笑いを漏らしてしまった。