星々の輝きを君に
30
「そうか」
ラウの話を聞き終わったタッドは、小さなため息とともに頷く。
「とりあえず、キラちゃんだけでも無事が確認できてよかった」
カナードの方はおそらく放っておいても大丈夫だろうが、と彼は続ける。その気になれば、地球軍だろうとザフトだろうと、必要な物資を奪取して必要な行動を取るだろう。彼はそうも続ける。
「否定は出来ません」
苦笑と共にラウは言う。
「どちらにしろ、今頃、キラが彼と連絡をつけているかもしれません」
その意味もあって、ハッキングの許可を出したのだ。
「ディアッカが傍にいますから、フォローしているでしょう」
その点に関しては心配していない。ラウは苦笑と共に付け加える。
「何よりも、アスラン・ザラはこちらにいますからね」
誰よりもキラを傷つける可能勢がある人間は、と彼は言葉を重ねた。
「パトリックの思惑も、今回だけはプラスに働いた、ということか」
不幸中の幸いといってはいけないのだろうが、とタッドは続ける。
「どちらにしろ、オーブと連絡を取らずばなるまい。それに関しては私に任せておいて貰おう」
自分であれば周囲のものに不審に思われないだろう。彼はそう言った。
「お願いします」
カナードはともかく、彼らにはキラの無事を知らせなければいけないだろう。でなければ、カガリがどのような行動に出てくれるか。それを考えるだけで頭が痛い。
「では、私はこれで」
誰かがこちらに歩む酔ってくる気配を感じて、ラウは会話を切り上げることにする。
「あぁ。すまなかったね、親ばかで」
タッドもまた話を合わせるように言葉を口にした。
「迷惑をかけると思うが、遠慮なくしごいてくれたまえ」
さらに彼は言葉を重ねる。それとタイミングを合わせるかのように近づいてきた人物の顔が確認できた。
「ここにいたのか、クルーゼ」
「ザラ閣下」
危なかった、と思いながらラウは視線を移す。
「タッドもいたのか?」
彼はそう言いながら大股に歩み寄ってきた。
「息子のことをな」
この言葉で、パトリックは納得したらしい。
「そう言えば、あちらの残っているのだったな」
申し訳なさそうな表情を作ったのは、アスランがこちらに戻っているからだろう。もっとも、それが本心から出た表情なのかどうかはわからないが、とラウは心の中で呟く。
「仕方があるまい。あれも軍人になったのだ。覚悟は出来ているだろう」
タッドはそう言って苦笑を浮かべる。
「そうだな」
そう言って頷くパトリックにどのような反応を返せばいいのか。だが、迂闊なことをして自分の正体を彼に悟らせるわけにはいかない。そんなことになれば、真っ先に危険にさらされるのはキラだ。
それに、と心の中で付け加える。
あの二人も、キラが傍にいれば無茶はしないだろう。それに、ゼルマンなら的確なフォローをしてくれるはずだ。
「ともかく、議場に行くかね?」
タッドがこう言う。
「そうだな」
確かに、事前に話し合っておきたいこともある。そう言ってパトリックは頷く。
そう言えばアスランはどうしているのだろうか。奪取してきた新型について説明をさせることになっていたが、とラウは思い出す。
「私はアスランと打ち合わせをしてから議場の方へ向かわせて頂きます」
他にもあれこれ根回しをしておきたい。そう心の中で呟く。
「よかろう」
頷くパトリックに一礼をすると、ラウは体の向きを変える。彼の視界から自分の表情が見えなくなったと確信した瞬間、渋面を作ってしまった。それは自分の若さのせいだろうか。
ムウであれば、もっと、ポーカーフェイスでいられるのかもしれないが。
近いうちに彼とも連絡を取らないといけないだろう。そう考えながら、ラウは歩き出した。