星々の輝きを君に

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 久々に本国に戻ってきても、喜びは感じられない。
「この間にも、キラに何かあったら……」
 あちらにはディアッカ達は残っているのは知っている。だからこそ、余計に不安なのだ。
「まさか、キラとディアッカがいとこ同士だったとは」
 そうでなければ、彼女をザラ家で引き取ることも可能だっただろう。しかし、血縁関係があるのなら、エルスマン家のほうが適任だといわれるに決まっている。
「あの時だって……あいつらが、俺たちの邪魔をした可能性があるな」
 だから、自分が『プラントに一緒に行こう』といっても頷いてくれなかったのかもしれない。そして、彼女の言葉に両親共に頷いていたのだ。
 しかし、だ。
 あちらに残ったからこそ、このような状況になったとも言える。
「母上が生きていてくださったなら……」
 相談も出来るだろうに、とため息をつく。このような状況であれば、彼女だってきっと、キラのために一緒に動いてくれたのではないか。
 そう考えても、実際にはどうなのか。その答えを出すことは出来ない。
「キラ……」
 小さな声でその名を呼ぶ。
「俺は、お前に傍にいて欲しいだけなのに」
 どうして、と続ける。
 あそこまで自分は拒絶されなければいけないのか。
「それも、きちんと話し合えば……きっと、誤解だってわかるよな?」
 なのに、どうして連中が邪魔をしてくれるのか。
「……あいつらさえいなければ……」
 きっと話が出来るのに。カナード達がいない今が唯一のチャンスと言っていいような気がするのだ。
 それなのに、どうして、自分はここにいるのだろうか。そう思わずにはいられないアスランだった。

 アルテミスでアークエンジェルを捕らえることは出来なかった。
 いや、わざと見逃した……と言った方が正しいのか。
「……あそこまで強いとは、思いませんでした」
 ニコルがそう言ってため息をつく。
「キラさんが事前に打ち合わせをしていてくださったとはいえ、本気でやられるかと思いました」
 さらに彼はこう続ける。
「兄さんは、ジャンク屋ギルドにも顔を出しているから……そこで覚えたみたい」
 キーボードを叩きながら、キラがこういった。
「ジャンク屋か……」
 話だけは聞いている。あまりいいイメージは抱いていなかったが、カナードが顔を出しているというのであれば認識を改めた方がいいのだろうか。イザークは心の中でそう呟く。
「そう。色々と面白いことを教えてくれるよ。基本的に、自分たちで何でも出来る人たちだから」
 それに、とキラは続ける。
「ギルドにいる人たちは法律ぎりぎりのことはしても、違法なことはしないしね」
 裏技とかも、そこで教わったし、と彼女は笑う。
「お前な」
「だって……オーブにもいつまでいられるかわからないからって、カナード兄さんが」
 バカがいるから、といっていた。ため息混じりにキラは言い返す。
「……バカって、あれか?」
 それだけでディアッカにはわかったらしい。あきれたような口調で聞き返した。
「あいつはカガリにご執心だったんじゃないのか?」
「そうなんだけどね……何か、あれこれ言ってくれているよ」
 自分は直接聞いたことはないが、カガリとカナードが怒りまくっていた。キラはそう続ける。
「そうか……」
 後で確認しよう、とディアッカは笑う。
「……オーブがダメならプラントにいらっしゃれば……」
 ニコルが口を挟んでくる。
「アスランがどうにかなればな」
 あれがいる以上、プラントもなぁ……とディアッカが呟く。
「この前の様子を見ていると、否定できないな」
 イザークもこう言って頷いた。そのまま、何気なくキラに視線を向ければ、その表情が強ばっているのがわかる。
「大丈夫だ、キラ。エルスマンだけではなくジュールも敵に回すつもりは、ザラにはないはずだからな。アスランだけの暴走なら、なんとでもしてやる」
 安心しろ、とイザークは微笑む。
「そうそう。俺らがいるだろう?」
 ディアッカも負けじと口にする。
「微力ながら、僕もフォローさせて頂きます」
 いざとなれば、あの人も巻き込みましょう……とニコルは続けた。それが誰か、イザーク達ににはわかる。
「……でも」
 知らない人に迷惑をかけるわけにはいかないのに、とキラは呟く。
「気にするな、キラ。アスランの婚約者だ」
 まったく無関係というわけではない。そう言ったところで別の意味で怒りがわき上がってくる。
「婚約者がいるのに、何を考えているんだ、あいつは」
 いくら、婚姻統制の関係とはいえ、決められた相手がいるのであれば、その人を優先するのが当然だろう。少なくとも、自分はそうだ。
「だよなぁ」
 本当に何を考えているのか、とディアッカも頷く。
「本当、今、目の前にいなくてよかったよ」
 彼の言葉に思い切り同意をしてしまう三人だった。それに、キラだけが困ったような表情を作っている。
 そんな彼女に、イザークは安心させるように柔らかな笑みを向けた。

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最遊釈厄伝