星々の輝きを君に
27
「まったく……あそこまで聞き分けのない人だとは思いませんでした」
ため息とともにニコルがこういう。
「昔からだ、と聞いているけどな」
カナードが苦労していたらしい、とディアッカが口にする。
「かなりえげつない邪魔をしたらしいが……それでもめげないのは何なんだろうな」
普通ならめげるぞ、と彼は続けた。
「他にも、カガリにこてんぱんにやられたらしいが」
それはそれで問題だと思うが、と彼は苦笑を浮かべる。
「カガリ?」
「キラの母方の従姉妹。ナチュラルなんだけどな。実力だけなら俺と互角」
ものすごく不満そうに彼は言葉を返してきた。それはそうだろう。ナチュラルと互角というのは恥ずかしいと思える。
「まぁ、あれもカナードさん達に鍛えられていたし、ナチュラルだってすごい奴はすごいからな」
それだけは認めないわけにはいかない言葉にニコルも頷いて見せた。
「でも、そこまで嫌われるなんて……何をやったんですか、アスラン」
そのまま、彼はディアッカにこう問いかける。確かにそれは一番聞きたいことだ。もっとも、聞かなくてもキラのあの様子を見ていれば、絶対にアスランを近づける気はないが。
「なんて言うか、キラを孤立させようとしていたらしい」
アスランが彼女を独占しようとして周囲から友人を排除したり、強引に連れ出したり、とかと指折り数えながら彼は言った。
「独占欲ですか? まぁ、キラさんは可愛いですから」
「だろう?」
即座に言い返す彼の表情は、何というか、兄のそれに近い。でなければ、今の一言は自慢としか取られないだろう。
「でもな。あいつ、月にいた頃は男として暮らしていたんだよな」
へらりととんでもないセリフを口にしてくれる。
「……何故だ?」
何故、そのようなことをしなければいけないのか。言外にそう問いかけた。
「そりゃ、月には地球軍の基地があったからな」
しかも、あのころは月でコーディネイターの少女だけをさらうバカがいたらしい。そんな連中から可愛いキラを守るための苦肉の策だった。そう言われては納得するしかない。
「アスハの力でIDの改ざんまでしたと言っていたし」
そこまでして守られなければいけない存在なのか、キラは。しかし、それはどうしてなのだろう。
「キラのもう一人の伯母さんが、あいつにとんでもない遺産を残していたから、念には念を入れたんだろうな」
タッドですら、それを喉から手が出るほど欲しがっているものだ。イザーク達の疑問に答えるかのように彼は言葉を重ねた。
「でも、こちらに来たときにはちゃんと少女だっただろう?」
違ったか? とイザークは問いかける。
「そりゃ、プラントにはキラを傷つける人間がいなかったからな。アスラン含めて」
たまには女の子の恰好もさせてやりたいという周囲の者達の気遣いで使節団へと選ばれたのだという。だから、あの時のキラは女の子でよかったのだ。
「……色々と複雑なのですね」
キラが抱えている事情は、とニコルが言う。
「そりゃ、俺たちの従姉妹で、オーブでもトップクラスの技術者だからな、あいつは」
あの頭の中に、どれだけの特許がつまっているか。
「その上、趣味があれだしな」
さらに彼は苦笑を深める。
「地球軍にしてみればそれこそ、何としても欲しい人材か」
ならば、よく似た別人にしてしまった方がいい。そう考えるのは普通だろう。
「キラの事情はそう言うところだが……三年前に厄介ごとが持ち上がって月にいた同胞が本国に戻ってきただろう?」
話を元に戻すが、とディアッカは話題を変える。
「だが、キラが当然、プラントには来られない。第一世代だからな」
もっとも、と彼は続ける。エルスマン家にキラの両親から正式に『保護をしてくれ』と言われれば無条件で呼び寄せるつもりだったが、と彼は続けた。
「それがあいつには気に入らなかったらしい。拉致監禁事件を起こしてくれたんだよ」
その途中でキラの本来の性別がばれたのだとか。
「カナードさんが間に合わなければ、もっと厄介なことになっていただろうな」
その一言だけでアスランが何をしようとしていたのか、想像が付いてしまう。
「キラさんがアスランを恐がって当然ですね」
ニコルの声音に怒りが滲んでいる。それは当然だろう。いくら暴走したにしても、やってはいけないことをしようとしたのだ。そして、それならば、周囲の者達がアスランを毛嫌いしても当然だと思える。
「だが、あいつは自分が間違っているとは思っていないようだな」
思っていれば、あんなに臆面もなく『キラに逢わせろ』と言うはずがない。
「だから、俺たちが気をつけなければいけないんだよ」
一応、ラウには話を通してあるが……とディアッカが付け加えたのは、彼の正体をニコルに教えるわけにはいかないから、だろう。
「わかりました。そう言うことでしたら、今まで以上に協力させて頂きます」
しかし、彼の言葉は心強い。とりあえず、これでアスランの暴走を押さえられればいいのだが、と思わずにいられないイザークだった。