星々の輝きを君に
26
「……アルテミスの傘?」
キラがそう言って首をかしげた。
「って、確か、地球軍の宇宙要塞にあるあれですよね」
流石にハッキングが趣味と言うだけのことはある。どうやら、知識として得ているらしい。
『あぁ。我々としてはそのデーターが欲しい。オーブの国民である君に頼むのは筋違いだとはわかっているが、あれがあれば、プラント本国にいる民間人を守れるかもしれない』
だから、何とかデーターを入手できないか。普段の指揮官の口調でラウがそう言う。
「出来るとは思いますけど……」
小首をかしげながらキラは言葉を返す。その瞬間、ブリッジのクルーから意味のない言葉がこぼれ落ちた。
「でも、そのためにはこの艦のシステムの一部を借りないといけませんが?」
いいのか、とキラは聞き返す。
『システムの書き換えをしなければ構わないよ』
くくっと笑いながら、ラウはそう言った。
『そう言うことだ。必要な資材の手配は君に頼んで構わないね、イザーク』
視線を移動すると、彼は言葉を重ねる。
「はい」
命令とあればいやはない。まして、キラが楽しそうだからいいのか。しかし、その内容は、と思わずにいられない。
だが、彼はキラの兄代わりだと言っていた。
ひょっとして、キラにハッキングの方法を教えたのは彼なのではないか。そんな可能性すらわき上がってくる。そして、それは間違っていないような気もする。
『ところで、不自由はないかな?』
表情を和らげるとラウはこう問いかけてきた。
「はい。みなさんによくして頂いていますから」
ふわりとキラは微笑む。
「多少暴走しかけているものもおりますが、エルスマン達が傍にいれば大丈夫でしょう」
小さな笑いと共にゼルマンも口を開く。
『それはよかった。ヴェサリウスは近いうちに一度本国へ帰らなくてはならなくてね』
しかし、この言葉は予想外だった。
「隊長?」
ひょっとして、キラも連れていくつもりなのだろうか。しかし、ヴェサリウスにはアスランがいるし、と思う。
あそこまで嫌われているアスランと一緒にして大丈夫なのか。
『すまないが、君はまだしばらく、ガモフにいて貰うことになる』
イザーク達の不安を読み取ったのか。ラウはこういった。
「何故、ですか?」
だが、戦場に置いておくよりも本国の方が安全なような気がする。そう考えて、イザークは問いかけた。
『彼女の立場が問題でね。事前にエルスマン議員と話し合っておいた方がいい。そう判断しただけだ』
キラ本人の問題ではない。言外に彼はそう続ける。自分が知らないことも、彼は当然知っているはずだ。
ということは、ディアッカも知っているのだろう。
後で確認しなければいけないだろうな、と心の中で呟く。
「僕は構いませんが……でも、みなさんにご迷惑をかけているのではないかと……」
「気にするな」
キラの言葉にイザークは即座に言い返す。
「お前が目の前にいてくれれば、それだけで安心できる」
さらに彼はこう言葉を重ねた。
「他の者達も同じ気持ちだよ。だから、安心しなさい」
ゼルマンもこう言って微笑む。
『次に合流したときには、君にとって一番いい方法を選択できるようにしよう』
ラウがこう言って優しい笑みを作った。その瞬間、ブリッジに微妙な空気が満ちあふれる。だが、キラに向けたものだから……とクルー達は自分を納得させたようだ。
『それと、ゼルマン』
「はっ」
口調を変えるとラウが呼びかけてくる。それに条件反射のようにゼルマンは姿勢を正した。
『あれは構わないから追い返すように。すぐに本国に向かう予定だからね』
あぁ、だからニコルとディアッカがデッキに行ったのか、とイザークは心の中で呟く。
「了解しました」
事前に話を聞かされていたのだろう。ゼルマンはすぐに頷いてみせる。
「では、自分は必要なものの準備をさせて頂きます。キラ、パソコンの他に何が欲しいか教えてくれ」
ならば、自分の役目はキラにその事実を悟られないようにすることだろう。そう判断してイザークはこういった。
「……とりあえず、パソコンがあれば、必要なプログラムは自分で組むし……」
その時になってみないとわからない、とキラは言葉を返してくる。
「そうか。なら、部屋だな」
言葉とともにて絵を差し出す。そうすれば、彼女は当然のように自分の手を重ねてくれた。