星々の輝きを君に
16
艦長からの指示があったのか。先ほどまで鬱陶しいほど感じられた気配が遠ざかっていく。
「大丈夫か、キラ」
彼女が小さく吐息を付いたのに気付いて、イザークはこう問いかける。
「大丈夫です、イザークさん」
そうすれば、彼女は淡い笑みを口元に刻んだ。
「……そうは見えん。無理はするな」
まったく、と心の中でため息をつきながら、そっと彼女の髪に触れた。
「お前を連れてきたのは俺たちだ。だから、もっとワガママを言ってもいいんだぞ」
隊長からもそう指示をされている、と続ける。
「……でも……」
自分はイレギュラーな存在だし、とキラは言い返してきた。
「戦闘に関わりのない人間がうろちょろしてはいけないのではないですか?」
カナードにそう言われたことがある、と彼女はさらに続ける。
「……カナードさんか」
あの人も謎の存在だ、と思う。
「そう言うセリフを口にするということは、軍に?」
あれだけの実力を持っていれば、今はオーブ軍に所属していたとしてもおかしくはない。だが、そうだとすればかなり厄介なことになるな、と心の中で呟いた。
「ううん」
だが、キラはすぐに彼の言葉を否定する。
「兄さんは、ジャンク屋の人たちと出かけることが多いから」
もっとも、ほっとしたのは一瞬だった。別の意味で厄介な――もっとも、彼らの場合、敵対さえしなければ協力をしてくれるが――組織と行動をともしているのか……と頭を抱えたくなる。
「ひょっとして、MSの操縦も出来るのか、あの人」
ジャンク屋がジンを修理して使っているという話しも聞いているし、と思わず口にしてしまう。
「……シミュレーションだけなら、付き合わされたことがあるよ?」
ゲームだけど、とキラが口にした。
「なるほど」
一体どこまでキラはMSを扱えるのか。ふっとそんな疑問がわき上がってくる。しかし、それを他人に知られない方がいいだろう。知られたら、間違いなく利用されかねない。
「だが、それは俺かディアッカ以外の人間には言うな」
いいな、と彼女の顔を見つめながら告げる。
「……うん」
わかった、とキラは頷いて見せた。
「そう言えば、ディは?」
どこに行ったんだろう、と彼女は首をかしげる。
「今、ブリッジだ。お前の部屋を何とかしないといけないだろう?」
流石に、とため息をつく。
「僕は……」
「お前は女だからな。他の連中のことも考えてくれ」
この艦には男しか乗り込んでいないのだ、と続ける。
「流石に訓練以外で味方とやり合うのはな」
約一名をのぞいて遠慮したい、と付け加えた。
「……やっぱり、戻った方がいいのかな?」
キラがそう呟いたときだ。
「イザーク、ちょっと!」
ドアが開いたと思った瞬間、ニコルが顔を見せる。
「何だ?」
こう言いながら、彼の方へと近づいていく。
「キラ。頼むから部屋で大人しくしていろよ?」
ドアのところで動きを止めると振り向きながらこういった。
「うん」
わかっているよ、と彼女は頷いてみせる。それでも、出来るだけここからはなれない方がいいだろう。イザークはそう考えていた。