星々の輝きを君に
13
キラは無事に安全な場所まで移動できただろうか。
本当であれば、今すぐにでもそれを確認したい。しかし、そうできない事情がカナードにはあった。
「……何故、お前がここにいる?」
低い声でその事情へと問いかける。
「噂の確認に来ただけだ」
即座に彼女はこう言い返してきた。
「俺が『調べる』と言っておいただろうが」
自分が信用できなかったのか、と言外に問いかける。
「聞いてない」
ぼそっとカガリは呟くように言葉を返す。
「ん?」
何を『聞いていない』のか。それを確認しなければ話が進まないのではないか。そう考えて視線を向ける。
「私は、カナード兄様とキラがここにいることを聞いてない!」
その瞬間、彼女は怒鳴るようにこういった。
「どういうことだ、それは」
きちんと連絡は入れていたぞ、とカナードは眉を寄せる。
「……キラからの手紙はたまに届いていたけど、メールは届いてない」
カガリの言葉にカナードは深いため息をついた。
「どうやら、サーバーの方に何かがしかけられているようだな」
軍経由でウズミに出している報告書はきちんと届いていることを確認してある。だが、カガリへのメールは全て一般の回線を使っていた。それが届いていないとすれば、どこかで消えていると言うことだ。
「後で調べておかないとな」
だが、今はそれを考えている場合ではない。
「そう言えば、キラは?」
ようやくその存在を思い出したのか。慌てたように問いかけてくる。
「わからん」
ため息とともにカナードはこう言い返す。
「わからないって」
何で、と彼女は叫び出す。
「キラを守るのが兄さんだったんじゃないのか?」
そう彼女は続ける。
「地球軍の目をそらさなければならなかったし……合流しようとすれば、どこかの家出娘を保護する羽目になったしな」
まったく、と彼はため息をついてみせた。
「……私?」
「そうだ。この場合、優先しなければいけないのがどちらか、考えなくてもわかるだろうが」
キラには必要なことはたたき込んである。それに、情報が確かであれば、来ているのは彼の部下達だ。その中にあれがいることも聞いている。うまくいけば、彼らがあの子を拾ってくれているはずだ。
だが、とカナードは心の中で呟きながらカガリの顔を真正面から見つめる。
「言葉は悪いが、キラや俺に万が一のことがあっても、みんなが悲しむだけだ。だが、お前に何かあれば、オーブが揺らぐぞ?」
それを自覚しているのか。その琥珀の瞳をのぞき込みながら問いかけた。
「でも! いや、それだからこそ、オーブで何が起きているのか、確認しなければいけない義務が……」
「自分で自分の面倒を見られない人間の言うセリフじゃないな」
何があっても、自力で対処できる人間だけがそんな行動を取っても許される。だが、カガリはまだそこまで行き着いていない。
「文句があるなら、迂闊な行動を取った自分へと言え!」
まさかここまで言われるとは思っていなかったのだろう。彼女は衝撃を隠せないという表情を作る。
だが、まだ傷口が浅いうちにしっかりとたたき込んでおかなければいけない。
そうでなければ、とんでもない行動を取ってくれかねないのだ。
以前、一度それで失敗しかけた身としては、同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。
「……ともかく、安全な場所まで移動するぞ」
残りの小言はその後でだ、と口にしながらカナードは歩き出した。渋々といった様子でカガリも付いてくる。
「しかし、酷いな」
激しい戦闘があったのだろう。至る所にその痕跡が残されている。
「……兄さん、あそこ!」
不意にカガリがこういう。視線を向ければ、ザフトのノーマルスーツを着た人間が倒れているのがわかった。かなり出血しているらしい。生きているのか、と言いたくなったが、相手の指が動いているのが見えた。
「カガリ」
「何?」
「応急処置をしたらそいつのスーツをはいでおけ」
流石に、ザフトの人間とばれるのはまずいだろう。
「わかった。でも、兄さんは?」
「あれを貰ってくるさ」
そうすれば三人ぐらい、避難できるだろう。うまくいけばキラも探せるかもしれない。こう言いながら視線を向けた先には、一機のMSがあった。