星々の輝きを君に
10
平穏だったコロニーがいきなり戦場になる。民間人達は誰もそのようなことを想像していなかったのだろう。あちらこちらでパニックが起きているらしい。
その様子を、カナードはキラと共に連れ込まれたエレカの中から見つめている。
だが、その間も彼は冷静さを手放してはいなかった。
「大丈夫だ、キラ」
震えながらすがりついてくる彼女にそう囁いてやる。
「俺がここにいるだろう?」
そうは言っても、彼女の不安が解消されるはずはない。目の前の連中がいなくならない限りこのままだろう。
だが、それでは困る。
せめて、彼女だけは安全な場所に逃がさなければいけない。
そのタイミングで彼女が動けないのではそれも難しくなってしまう。
こう言うときに、あの二人が傍にいてくれないというのは厄介だな……とカナードは心の中で呟いた。
彼らがいてくれれば、フォローが期待できたのに。早々に彼女を安全な場所に移動させてくれたのではないか。
だが、彼らには彼らの役目がある以上、そんなことを言っても仕方がない。それはわかっていても、現状では他に彼女を安全な場所に逃がす方法が見つからないのだ。
「ったく……だから、目立たないようにしていたのに」
少なくとも、この地では。なのに、何故、地球軍に自分たちの事が知られているのか。
考えられる理由は、やはりあいつらだろうか。
心の中で呟くと同時に、脳裏にいくつかの顔が思い描かれる。
「……無事に帰れたら、きちんと対策を取らないとな」
ぼそっとそう呟く。
「兄さん?」
その呟きが耳に届いたのだろう。キラが小さな声で問いかけてくる。
「ちょっとむかついたからな。後で誰に八つ当たりをするか、考えていただけだ」
きっと、すぐに解放されるだろうから……と付け加えた。
もちろん、それが気休めでしかないとキラにもわかっているのではないか。
「……お家、壊さないでね?」
それでも、こう言い返してくる余裕が出てきたらしい。
「わかっている」
壊すなら、本土のあそこにしよう。きっと彼女たちも協力してくれるはずだ、と心の中だけで呟く。あるいは、あの二人もその時には押しかけてくるかもしれないとも思う。
「しかし、いったい、俺たちに何をさせる気だ?」
自分一人ならばまだ納得できる。しかし、キラも一緒となればどう考えてもきな臭い目的だとしか思えない。
こうなれば、何とかして彼に連絡を取るしかないだろう。
同じ地球軍の人間ならば、キラのための防波堤になってくれるはずだ。
そんなことを考えていたときだ。
不意に大きくエレカがバランスを崩す。
「きゃぁっ!」
キラが反射的に声を上げる。その彼女の体を衝撃から守るかのようにきつく抱きしめた。
その間にもエレカは大きく横転をする。
「……ぐっ!」
全身に伝わってくる衝撃に、カナードは一瞬、息が止まるかと思った。だが、同時に、これが好機だとも考える。コーディネイターである自分たちですらこれだけの衝撃を受けたのだ。ナチュラルである地球軍の連中はすぐには動けないのではないか。
もっとも、と心の中で呟く。
訓練をしている軍人を甘く見てはいけない。それもよくわかっていた。
「キラ」
エレカが止まったところで、カナードは腕の中の少女に呼びかける。
「外に出ろ」
そのまま走れ、と小さな声で付け加えた。
「兄さん?」
「俺なら大丈夫だ」
むしろ、今はキラが傍にいない方が動きやすい、と言外に付け加える。それが伝わったのだろう。彼女は小さく頷いて見せた。
そのまま、割れた窓から外へとはい出していく。もちろん、カナードもその後を追いかけた。
「お前達、何をしている!」
ようやく気が付いたのだろう。地球軍の兵士がこう叫んだ。
「キラ、走れ!」
こいつには構わずに、と続ける。
「シェルターまでたどり着ければ、後は何とでもなる。必ず、追いかけるから!」
そう言うと、カナードは体の向きを変え、地球軍の兵士の意識を失わせるための行動を開始した。