星々の輝きを君に
09
目の前に目的地が確認できる。
「何が中立だ」
イザークが小さな声で吐き捨てた。
「そう言うなって。多分、セイランあたりの独断だろう」
グラビア雑誌から顔を上げずにディアッカが言い返してきた。
「オーブの五氏族も一枚岩じゃないってことだ」
そう言い返す彼の目が、紙面ではない別のどこかに向けられているような気がする。
「……ディアッカ?」
微妙に口調を変えて呼びかけた。それだけで、彼には自分が何を言いたいのか、わかったらしい。
「……状況によっては、単独行動をするかもしれん。フォロー、よろしく」
こんなセリフを投げつけてくる。
「あそこにいるのか?」
そっと問いかければ、渋々といった様子で頷いて見せた。
「三年前、おじさん達とカナードさんと一緒に移住したそうだ」
モルゲンレーテの関係者だから、優先的に移住が認められたらしい。もっとも、とディアッカはため息をつく。
「それを聞かされたのは、今回、出撃する直前だけどな」
もっと早くに知っていれば、いくらでも手が打てたのに……と彼は続ける。
「どうやら、まじで通信規制が行われていたようだな」
間違いなく、プラント側だろうな……とため息をついた。
「……で、何でそれが届いたんだ?」
「カナードさんとキラの特技の一つにハッキングがあるからな」
最終手段を使っただけだろう、と言われて、どう反応を返せばいいのか。
「今回はカナードさんからだったが、実力はキラの方が上らしい」
さらに信じられないセリフが耳に届く。
「まぁ、流石に抜け出してまでは探しに行かないが……目的地がモルゲンレーテだからな」
ひょっとしたら、という可能性がないわけではない。その時は、とディアッカは続けた。
「わかった。そう言うことなら協力してやる」
戦闘に巻き込まれそうならば、無条件で……とイザークは言う。
「サンキュ」
途端に、彼はほっとしたような表情を作る。どうやら、かなり不安だったらしい。確かに、自分たちにとって見れば初陣に近い状況だし、とそれをバカにする事はしない。自分が彼と同じ立場であれば、きっと、もっと不安になっていたはずだ。
「本当は、あいつらにも協力をして欲しいところだが……」
そう言いながら、彼は視線を移動させる。その先には自分たちの仲間――と言っていいのだろうか――が三人で何かを話し合っている姿があった。
「やめておいた方がいいな」
説明が面倒になる、とイザークも彼らを見つめながら言う。
「だよな」
今は、そんな時間を取っていられる状況ではない。それは彼もわかっていたのだろう。
「まぁ、お前が協力してくれるだけまし、ということにしておくか」
それだけでも気が楽だ、とすぐに笑みを作る。
「一番いいのは、そう言う状況にならないことだけど、な」
確かに、あそこで建造されているものは破壊しなければいけない。だが、市街地まで戦禍を広げる予定はこちらにはないのだ。
だから、市街地の方にいてくれれば、自分たちが手を出す必要はないはず。
「あいつの才能を考えれば、難しい……と言ったところか」
「あぁ」
協力を強要されていることはないかもしれない。だが、真実を知らされずに協力させられている可能性はある。
だから、ディアッカも不安をぬぐえないのだろう。それは自分も同じだ。
「カナードさんが一緒だ。だから、大丈夫だろう」
これは彼に告げたのではない。自分に言い聞かせるための言葉だ。
「そうだな。あの人なら、いざとなれば地球軍のシャトルの一つや二つ、奪取するぐらい簡単にやるだろう」
キラを連れて逃げるためなら、とディアッカは言う。
「あの人も、本当に謎だな」
そう言い返すか出来ないイザークだった。
「お前ら、時間だぞ」
ミゲルが顔を出すと同時にこう告げる。その瞬間、イザークは無理矢理意識を切り替えた。
ミスをして、自分が死んでは意味がない。だから、その時まで彼女のことは脳裏から追いだしておく。そう自分に言い聞かせながら歩き出した。