星々の輝きを君に
07
本来であれば、アカデミー卒業まで一年の時間をかけるのだという。
しかし、現状では、そこまで時間的猶予がない。
だからかなり無茶な訓練プログラムを組まれていたらしい。しかも、MSという新しい武器のパイロットも育成しなければいけない。これが現在、ザフトを有利に導いてくれている存在なのだ。
「やるなら、やっぱ、パイロットだよな」
自分を鼓舞しようとしているのか。ディアッカはこう言って笑った。あるいは、パイロットなら自分の手でキラ達を救い出せるかもしれない、と思っているのかもしれない。
「当然だな」
確かに、一番身軽に動けるのはパイロットだろう。もちろん、上官の命令を無視してまでは出来ないことはわかっている。それでも、可能性があるならかけたいと言う気持ちは自分も同じだ。
しかし、相手がディアッカとはいえ、自分がそれを考えていると知られたくない。
「俺たちのような立場であれば、余計にそうするべきだろう」
幸か不幸か、最高評議会議員の子弟、という立場だ。だから、少しでも先頭に立てるポジションを得る必要があるのではないか。イザークはそう告げる。
「確かに」
それにディアッカも頷いて見せた。
「だけど、同じ事を考えている奴がここまで居たとはな」
そう言いながら、彼は視線を移動させる。
その先には、自分たちと同じ立場の者達の姿が確認できた。
「ラクス嬢をのぞく全員が揃ったんじゃねぇ?」
「……このような場合だからな」
ラクス・クラインは女性と言うだけではなく彼女の歌が人々の心をいやしている以上、戦争とは無縁の場所にいて欲しい。そう考えるのは自分だけではないはずだ。
「そういや、あいつはラクス嬢の婚約者だったな」
ふっと思い出したというようにディアッカは呟く。それが誰のことを指しているのか、わかってしまった。
「だからといって、あいつらとなれ合う気はないぞ、俺は」
そんなことをしても意味はない。言外にイザークはそう付け加える。
「はいはい。わかっているって」
苦笑と共にディアッカは言葉を口にした。
「キラ達のことがなきゃ、俺とだって話をしなかったかもな、お前は」
さらに彼は言葉を重ねる。
「……そんなことはないと思うぞ」
腐れ縁の相手だし、彼と話をするのはいやではない。だから、とは思う。
「その間は何なんだろうな」
ディアッカがつっこみを入れてくる。
「考えたことがなかったから、一瞬、驚いただけだ」
即座にこう言い返す。
「まぁ、そう言うことにしておいてやるよ」
ディアッカがわざとらしい口調で言った。
それに何と言い返してやろうか。そう考えたときだ。講義室の入り口からざわめきが伝わってくる。
「……何だ?」
何か緊急事態でもあったのか? とイザークは呟く。
「さぁな」
こう言い返しながら、ディアッカも視線を向けた。
その瞬間、白い軍服が確認できた。
「誰だ?」
ここからでは顔が確認できない。顔を見ることができればわかるのに、と心の中で呟く。
まるでそれが聞こえたかのように相手が室内に足を踏み入れてきた。途端に、ざわめきが大きくなる。
「クルーゼ隊長」
その瞬間、相手が誰なのかわかった。
いや、わからない方がおかしいと言うべきか。
彼の姿は戦争が始まってから何度もマスコミによって流されている。だから、その特徴的な仮面――戦闘中のケガで目に損傷があるのだと聞いていた――と豪奢な金髪を知らないプラント国民はいないだろう。
「……まさか、なぁ」
小さな声でディアッカがこう呟く。
「どうかしたのか?」
思わず聞き返す。
「何でもない」
そう言葉を返すものの、彼は何かを考えているようだ。しかし、聞き返そうにもクルーゼが教壇に立った今は出来ない。
後で確認してやろう。イザークは心の中で呟いていた。