星々の輝きを君に

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  03  



 使節団に選ばれるのだから、それなりに優秀だとは思っていた。しかし、カナードのそれは自分はもちろん、エザリアも舌を巻くほどである。
 それ以上に、エザリアはキラが気に入ったようだ。
 カナードがアプリリウスのジュール邸にいるせいか。それとも、自分たちが一緒に過ごすことが多いせいか。キラはよくここで過ごしている――もちろん、それ以上にエルスマン邸で過ごしているのだが――だから、彼女とエザリアが顔見知りになったとしてもおかしくはない。
「今日はキラちゃんは顔を見せてくれるのかしら?」
 しかし、エザリアが彼女の訪れをここまで待ちわびるようになるとは思わなかった。
「まぁ、俺も母上のことは言えないが」
 キラが来るのを楽しみにしているから、とイザークは自嘲の笑みを浮かべる。しかし、そんな自分が嫌ではないのだ。
「いっそ、あいつがプラントに残ってくれると嬉しいが……無理だろうな」
 小さなため息とともに言葉を口にする。
「本当に、あいつはご両親が好きなようだし……流石に、第一世代ではな」
 両親から引き離すのは懸命ではないだろう。それに、きっと、あちらにも友人がいるに決まっている。
 彼女にとって、その友人がどれだけ大切かは聞いていない。しかし、コーディネイターキラの友人なのだ。ナチュラルであろうと存在を否定しない方がいいのだろう。
「ナチュラルは気に入らないが……自分たちコーディネイターを受け入れてくれる存在は貴重だからな」
 そう言う人間まで排斥しいても意味はない。
 イザークがそう呟いたときだ。
「なるほど。とりあえず正しい判断を出来るのか」
 背後からカナードの声がする。彼が近づいたことすら気付かなかった、と思いながらイザークは振り向く。
「違った判断をしていれば、あいつと連絡を取ることを認めないつもりだったが……許可してやってもいいな」
 ニヤリ、と笑いながら彼は言葉を綴る。その内容に、イザークは微かに引っかかりを覚えた。
「ひょっとして、それが出来ない人間が知り合いにいるのですか?」
 間違っているかもしれないが、と思いながら問いかける。
「いるぞ。一応、プラント籍の第二世代だ」
 キラの周囲からナチュラルを排除しようと画策しているな、と忌々しそうに彼は続けた。
「……プラント籍?」
「キラは父親の仕事の関係で、普段は本土ではなく月にいるからな」
 そう言われて、イザークも納得する。
「エルスマン家の人々は大丈夫だと思っていたが、他の第二世代があいつと同じなら、最悪の場合の避難場所を変えないといけないか、と思っただけだ」
 オーブにもバカがいてくれるせいでな、と彼はため息をつく。
「オーブのバカ、ですか?」
「キラだけが女の子だからな」
 バカが馬鹿なセリフを口にして、自分を含めた者達にぼこられたのは一度や二度ではない。彼はそう続ける。
「キラが相手を決めるまで、プラントに……という話しも出ていただけだ」
 しかし、そうなるとあれがどう動くかわからない。それを阻止できるかどうかも確認したいのだ、と彼は言った。
「厄介な人間なのですか?」
 さらに疑問を彼にぶつける。しかし、意味ありげな笑みだけで言葉を返してはくれない。
「ディアッカ様とキラ様がおいでになりました」
 さて、どうすれば彼から答えがもらえるだろうか。それを考えようとすればメイドの声が響く。
「タイミングがいいのか、悪いのか……」
 キラの前でそれを追及するわけにはいかない。
 だが、まだ、機会があるだろう。
「まぁ、キラが最優先だからな」
 自分に言い聞かせるようにこう呟く。
「そう言うことだ」
 くくっとカナードは笑いを漏らした。
「まぁ、頑張れ。とりあえず、お前はまだハードルを一つ越えたところだからな」
 さらなるハードルが待っている。しかも、そちらの方が高い、とカナードは続けた。
「おそらく、そう言う点において、俺が一番甘いだろうからな」
 さらに彼はそんなことを付け加える。
「カナードさん?」
「もっとも、お前がキラのことをどう考えているかによるがな」
 ただの友達でいたいなら、このままでいいだろうが……と彼は笑った。
「俺は、別に……」
 今まで、そんなことを考えたことはない。だが、今の言葉でイザークは自分の気持ちを省みずにはいられなくなった。
「まだ時間はある――それほど残されてはいないかもしれないがな――じっくり悩め」
 カナードはそう言い残すと、さっさと歩き出してしまった。

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最遊釈厄伝