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 キラ達のプログラムが完成したのを見計らったかのように、第三デッキの端末へ向けて通信が送られてきた。
「……送信場所は?」
「デブリの方ですね」
 プラントがあるのとは反対側のラグランジュポイント。そこからだと、キラは告げる。
「なるほどな。この船の監視センサーではデブリと重なって明確な位置がわからない……って思っているわけか」
 まぁ、そう思いたくなる気持ちもわからなくはないがな……とフラガが笑う。実際、一般のシャトルの遠距離用センサーはその程度の精度しかないのだ。もっとも、この船のセンサーは軍艦並なのだが。
「……これは、一応、オーブ本国の首長クラスが使う予定で造られた船だからな。それなりの設備が整っているというわけだ」
 カガリがフラガの疑問に答えを返す。
「表向きは中立だから、軍艦を仕立てるわけに行かなかった……というわけだ」
 オフレコにしてくれよ……と笑う彼女に、
「もちろんだって。その程度のことなら内緒にしておいてもかまわないだろうよ」
 とフラガも心配するなと言葉を返した。
「それに、そのおかげでこちらとしては助かっているのは事実だし」
 でなければ、相手の思惑通りになっていたのかもしれない。それはつまり、キラを始めとするコーディネーター達の死につながるだろう。多少気に入らない奴が存在はしているが、だからといって彼がいなくなるのはつまらない。まして、目の前にいる二人を含めたお子様達を死なせるのは不本意だ、とフラガは心の中で付け加えた。
「……どうしますか?」
 今ならコースを変えれば逃げられるかもしれない。ただし、その後のことを考えれば決していい方法だとは言えないだろう、とキラは言外に含ませながら問いかけてきた。
 かといって、戦えるかというとまた話は別だ。
 あくまでも予想だが、相手はそれなりに熟練した者たちを送り込んでくるつもりだろう。だが、こちらで『軍事訓練』を受けているものはフラガとクルーゼしかいない。それに、子供達の手を血で染めるのは不本意だ……と彼は心の中で付け加えた。
「さりげなく、コースを変更しよう……一番近いコロニーは?」
 こうなったら、作業用だろうとなんだろうとかまわない……とフラガは口にする。
「そうですね……」
 かたかたとキーボードを叩きデーターの検索を始めながらキラが言葉を口にし始めた。
「……一つありますけど……ここって、誰かいるのでしょうか」
 そう言いながら、キラはフラガにモニターを示す。キラがそんな行動を取ったのも無理はない。
「……連邦軍の観測用コロニーか……」
 記憶の中を探ってみるが、フラガにしてもすぐに思い当たる情報が出てこない。それだけ普段は注目されていないコロニーだろうと判断をする。
「……連絡を入れられるか? 救助依頼であれば連中も気にしないだろうし」
 というか自分たちの現在の状況では当然だろうとフラガは言った。
「そうですね。では、誰の名前で?」
「俺のでかまわん。軍関係の施設なら、俺の階級がそれなりに物を言うからな」
 少佐というのは高いとは言いがたいが、現場ではそれなりに発言権をもらえるんだよ、とフラガは笑う。
「わかりました。フラガ少佐のお名前で救助要請をしますね」
 キラが微笑みながら文面を入力し始める。
「……軍って……」
 いいのか、それで……とカガリがぼやくように口にしたのを聞いて、フラガは笑みに苦いものを含ませた。
「良くも悪くも実力世界なのさ。もちろん、その実力にはコネって言う言葉も含まれているがな」
 俺はもちろん、それなりに働いたからだぞ……と付け加えられて、カガリだけではなくキラも思わず笑ってしまう。
「フラガ少佐。一応、文面を確認して頂けますか?」
 その間にもまじめに文面を作成していたらしいキラが、顔だけフラガの方へ向けるとこう言ってきた。
「本当、坊主はまじめだよな」
 もう少し肩から力を抜けって、と声をかけながらフラガは文面を確認する。
「了解。大丈夫だ。送信してくれていいぞ」
 フラガはキラに笑みを向けるとOKを出す。
「知り合いがいてくれると、めちゃくちゃ楽だがな」
 さすがにそこまで都合良く行かないか、と付け加える彼に、カガリが大きく頷いている。
「そうだよなぁ……んなに世の中うまくいかないか。いくら俺が強運の持ち主でもな」
 運の良さも実力のうちなんだけどなぁ……と口にするフラガに、
「だろうな。でなければ、とても『少佐』には見えないよ。貴方は」
 とカガリが言い返す。そのセリフはともかく、口調は信頼と親しみが込められたものだったから、フラガは苦笑を浮かべるだけにとどめた。
「……そうでもないですよ……」
 そんな二人の耳にキラのこんなセリフが届く。
「どうした?」
「何かあったのか?」
 二人は即座に反応を返す。
「少佐宛に返信が来ています。もっとも、コロニーからではないようですが」
 そう言いながら、キラはどうしますか、とフラガに問いかける。さすがに個人宛の通信を見ていい物かどうか判断が付きかねたらしい。
「あらららら……これは奇遇だね」
 そんなキラの頭をフラガはその大きな手で撫でてやる。
「開いてかまわないぞ。こいつは信用できる」
 協力させようぜ、と笑う彼の表情は、まるでいたずらっ子のそれだった。





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最遊釈厄伝