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 システムの中に組み込まれていたそれはあっけないほど簡単に見つかった。だが、それはあくまでもこの船のシステムを構築したキラがいたからのことだろう。
「……お前がいなかったら、誰も気づけなかったな、これは……」
 それだけ絶妙と言っていいほどそれはシステムの中に組み込まれていたのだ。
「でも、この船を造った技術員に……まさかブルーコスモスの構成員がいたなんて……」
 だが、キラの方は表情を曇らせたままだ。どうやら、オーブの中にブルーコスモスの者がいたことがショックだったらしい。
「仕方がない。上のものはともかく、下っ端一人一人まで綿密なチェックをするなんて不可能だしな」
 それは自分も同じだ……とカガリがキラを慰める。
「だけど……」
「……キラ……責任感が強いのはいいけど、自分一人で出来ることと出来ないことがあるって言うことを理解しないとダメだよ。一人の人間が全部背負うことなんてできないんだから」
 ね、とアスランもキラを慰めにかかった。
「……理屈ではわかっているんだけど……」
 だが、自分がその人物に会っていたらわかったのではないか……という思いがキラの中にはある。
「最低の可能性だが、途中で入れ替わった……というケースも考えられるぞ」
 フラガもまたこんなセリフを口にしてきた。その意味するところがわかったのだろう。その場にいた全員が顔をしかめる。
「……俺たちが死んでも、そこまで大騒ぎにならないのでは……」
「いや、そうではないぞ。お互いの陣営で『あの船が沈んだのは相手のせいだ』と触れ回れば、あっさりと信じる奴だっているだろうからな」
 そう言うものだ、人間は……とカガリはため息をつく。
「ともかく、そうさせないためには俺たちが無事に帰らなければいけない。そのためには、相手の出方を知る必要があるってことだ」
 そのためには、プログラムの解析が必要だろう……と次になすべきことをフラガは口にした。
「そうですね……その方が先ですね」
 キラもフラガの言葉に納得したらしい。即座にそのための行動を開始し始める。
 かたかたとキーを叩いて見つけたプログラムのソースをモニターに表示させた。そして、そのままものすごいスピードでスクロールをしていく。周囲のものにはそれで中身がわかるのだろうかと思うほどだ。
「……どうやら、ある特定の周波数の信号を感じたときにだけ回線が開かれるようですね。そして、こちらからパスワードを入力することでその内容が読める……というシステムのようです」
 逆に言えば、その周波数を捕らえることが出来れば、相手の位置がわかるだろうとキラは口にする。
「……これだけでわかるのかよ……」
 そちらの方面はまったく手が出せないらしいフラガがため息とともに呟く。
「と言うことは、これは殺さないで、それだけを感知できるようにすればいいんだな?」
「それがはやいと思うよ。そのためのプログラムはすぐに組めるだろうし」
 組んでしまえば、後はブリッジでチェックしていればいいだけか……とキラは付け加える。
「……キラ、顔色が悪いぞ。そのプログラムって、俺たちでも組めるのならやるけど……」
 心配そうな口調でトールが問いかけてきた。
「そうですよ、キラさん。どうすればいいのか教えてさえいただければ、僕たちが共同で行います。その後でチェックして頂ければいいのですし」
 不安でしょうけど……とニコルもキラを見つめてくる。
 彼らの親交を深めるためにはそれがいいのではないか、とキラは思った。だから、不安はあるものの頷いてみせる。
「……お願いするよ。ウィルス感知プログラムと同じ形式で大丈夫だから。こちらのプログラムが動くと同時通知が行われるシステム、は」
 前に課題で出したよね……と言う言葉はトールへ向けられたものだ。
「しっかりと覚えてます……危なく単位がもらえなくなるところだったのを、個人講義して頂きましたから」
 未だにあれ、夢に見るんだよなぁ……と口にするトールの表情は本気でうんざりとしたものだ。それがこの場にいたものたちの笑いを誘う。
「まぁ、がんばってくれ」
 フラガの言葉が、メンバー全員の気持ちを代弁していた。

 睡眠を取りに行くフラガ達と別れて、キラは久々にブリッジのシートへと身を沈めていた。その側にはしっかりとアスランがいる。
「……キラ、何をしているの?」
 かたかたとキーボードを叩きはじめたキラに、アスランが問いかけてきた。
「必要ないかなっとも思うんだけどね。オート防御のシステムを作っておこうかと……」
 万が一の時に、すぐに人手がそろえられるとは限らないから……とキラは苦笑とともに口にする。
「それはいいんだけど……大丈夫なのか?」
「だから、急に動いたり無理な体勢を取らない限りは痛くないんだって……本当、過保護だよね、アスランもカガリも」
 キーボードを打つぐらいは負担じゃない、とキラはアスランをにらんだ。
「わかってはいるけどな」
「お前が根を詰めないかどうかが心配なんだろう、こいつは」
 そう言いながら口を挟んできたのはイザークだった。
「確かに、顔色がイマイチのようだが?」
 彼にまでこう言われるとは思わなくて、キラは困ったように小首をかしげる。
「寝ている間に大まかに考えておいたから……後は組んでみて不具合が出ないかどうかをチェックするだけなんだよね」
 一から構築するわけじゃないから、と口に出すキラにアスランもイザークもどうするべきかと考え込んでしまった。
「そうだね。それがあるとかなり楽だろうね」
 だが、クルーゼはそう思わなかったらしい。口元に微笑みを浮かべながら口を挟んできた。
「しかし、君の体調の方が重要だからね。疲れたと思ったら即座に休むこと。いいね?」
 この言葉に、キラは素直に頷く。
「わかっています。それで皆さんに迷惑をかけないようにしますから」
 微笑みながらキラがクルーゼに視線を向ければ、アスラン達が感心したような呟きをもらしている。
「……これも年の功って言うのか?」
「まぁ、一回りも年が違うから、な」
 ぼそぼそと呟かれている言葉の内容に、キラはクルーゼが機嫌を損ねないだろうかと心配になってしまう。
「そのくらいは年長者を立ててくれ」
 だが、クルーゼはそんな彼らの態度に慣れているのか、余裕の笑みとともにこう言い返している。
「でなければ、お前達の面倒は見きれないしな……それ以上に手間のかかる男もいることだし」
 それが誰のことか、問いかけなくても想像が出来てしまうのは気のせいだろうか。だが、それを聞けば藪蛇になるかもしれないと思うと問いかけるのもはばかられる。
 ともかく、ニコル達の作業が終わる前に大まかな形だけでも作ってしまおうとキラはまたキーボードをたたき出した。
「……それよりも、彼が食べられるものを用意しておいてあげなくていいのか? この調子だと、終わるか、あいつが戻ってくるまで食事を取らないかもしれないぞ」
 さりげなくクルーゼが口に出した言葉に、アスラン達がしまったという表情を作る。キラの体調ばかりに気を取られていてそちらの方は失念してしまっていたらしい。
「イザーク」
「あちらには彼女がいるんだよな。頼んでくる」
 まだ微妙なこだわりがあるのだろう。イザークはミリアリアの名を口にしようとはしない。だが、それでも彼の口調が柔らかいと思うのは、それなりにミリアリアのことを認めているからだろう。
 それだけでも最初の頃に比べれば進歩だとキラは考える。
「……特におなかはすいていないんだけど……」
 だが、彼らの勢いでは多くの食事を抱えて戻ってきそうだ……と思い直してキラはこう主張した。だが、当然のごとく、それは無視されてしまう。
「じゃ、お前が見張ってろ。三人分の何かを貰ってくるさ」
「頼む」
 二人は当然のように会話を終わらせる。そして、イザークがクルーゼとともにブリッジを出て行った。

 しばらくして戻ってきたイザークの手には可愛らしいバスケットがあった。
「それは?」
「三人分を皿で持っていくのは大変だろうから……と言って詰めてくれたんだよ」
 おかげで楽だったがな、とイザークは笑う。
「こう言うところの心遣いは、彼女の美点だね」
 アスランもまた微笑みながら言葉を返していく。  こんな風に友人が評価されるのは嬉しいと思ってしまうのは自分だけではないだろうとキラは思う。  それも、ミリアリアが本来持っている性格のおかげなのだ。結局、ナチュラルもコーディネーターも個人を個人としてみていれば、妙な壁なんか出来ないのではないだろうか。
 ナチュラル同士だって、足が速い人や絵が上手い人など、様々な個性を持った人々がいる。
 コーディネーターに対してもそう思ってくれればいいのではないか……とキラは願う。
「……まずは、ここのメンバーからだよね……」
 彼らの間のこだわりがなくなれば、きっと、これからいい方向へと向かっていくのではないか。そのためにも、無事に帰り着かないと……と心の中で付け加えると、キラはキーボードをいくつか操作した。
「キラ。熱心なのはいいけど、少し食べて」
 そんなキラの目の前に、バスケットごと食事が差し出される。中に入っていたのは、作業の邪魔にならないようにと考えてのことかサンドイッチと、それから手を汚さずに食べられるようなサイドメニュー。そして、デザートらしき果物だった。
「……もう少ししてからじゃないとダメかな……」
 今はいらない……と言っても、二人は許してくれない。
「ダメだ。作業が遅れてもいいから、食え!」
「そうだよ、キラ」
 一つでもいいから、とアスランが付け加える。
「でないと、またベッドに逆戻りさせるよ」
 こう言われては、食欲がなくても何かを食べないわけにはいかなかった。キラはため息をつくとサンドイッチに視線を向ける。その表情があるものに気がついたとたん柔らかなものへとなった。
「どうしたの、キラ?」
「ミリィに手間をかけちゃったなって思って」
 こう答えを返しながら、キラは端に詰められていたサンドイッチをつまみ上げる。
「わざわざ作ってくれたんだって、さ」
「あぁ、キラの好きなフルーツサンドだね」
 それも、他のサンドイッチより微妙に小さくカットされているそれを見て、アスランも微笑みを浮かべた。
「じゃ、それだけでも全部食べないと」
 この言葉にキラは素直に頷く。そして、それをおとなしく口にくわえた。
「本当、お前はみんなに好かれているな」
 やはり手の中のサンドイッチを口に運びながらイザークが声をかけてくる。
「と言うより、心配で放っておけないんじゃないのかな?」
 口の中にものが入っている状況で言葉を返せないキラの代わり、と言うようにアスランが口を開いた。その内容はキラにしてみればちょっとひどいんじゃないか……と思うようなものだ。だが、本人はいたってまじめらしい。
「あぁ、その気持ちはわかるな」
「だろう? 年下のはずのニコルやラクスにまでそう言われているからね、キラは」
 もうこれは一種の才能だね……というアスランの背中を、せめてもの抗議の証としてキラは思いきり叩いた。





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