Runners
22
「ともかく、急いで確認をした方がいいな……坊主、我慢しろよ」
言葉とともにフラガの腕がキラの体を抱き上げる。
「フラガ少佐!」
「こっちの方が早い。ついでに坊主にも負担がかからないだろう」
驚くキラにフラガは笑いかけた。そのまま移動を開始すれば、ドアの反対側で待機をしていたアスラン達も追いかけてくる。
「第三デッキですね?」
通路で話を聞いていたのだろう。アスランは確認のための言葉を口にした。
「あぁ。早い方がいいだろう……って、あっちには?」
「報告してあります。ニコルもあちらで合流するはずです」
自分たちの中で一番プログラムが得意だから、キラの手助けが出来るだろう……とアスランは付け加える。
「それはありがたいな。キラの負担を少しでも減らしておきたいところだ」
カガリがふわっと彼に微笑みかけた。
「最近、本当に過保護だね、二人とも」
昔から二人とも過保護だったけど……とキラはため息をつく。そう言えばカガリの過保護ぶりのおかげで、少々厄介だったこともまた事実なのだ、とキラは思い出してしまう。
「そういうことは、自分で自分のことをきちんと考えられるようになってから言え! 今回だけじゃないだろうが。お前がこんな風に怪我をしたのは」
そんなキラの表情をしっかりと見とがめたカガリが怒鳴りつけるように言葉を口にする。
「だよね。俺が知っているだけでも両手の指じゃ足りない回数だ。こんなに大怪我になったのは初めてだけど」
一方、アスランはため息とともにこう言った。
「そうなのか?」
「そうなんだよ。そのたびにフォローに走るはめになったからな、俺は」
まさか、この年になってもそうなるとは思わなかったけど……とわざとらしいため息をついてみせる。
「……だって……あの時こうしてなかったら、彼女が壊れそうだったんだもん……」
キラは小さな声でこう呟く。
「それに……おかげで彼女が教えてくれたんじゃないか……」
だから、対処が取れるようになったんだろう、とキラは小さな声で呟く。
「それはそうかもしれないけどな」
本当にお前は……とカガリがあきれたように言い返してれば、
「……それはたまたまだろう? もう少し自分を大切にしてくれないかな、キラ。お願いだから」
でないと、心配でやっていられない……とアスランも告げる。
「……二倍じゃなくて、二乗かな、これは」
二人が知り合ってしまったことが良かったのか悪かったのか、とキラがぼやく。
その声を耳にしたフラガが思わず吹き出す。
「フラガ少佐?」
それってどういう意味ですか……とキラは思わず八つ当たりをしたくなってしまった。
「心配してもらえるうちが花だって。俺みたいに見捨てられるよりマシだろう?」
何をしても反応がないんだぞ、俺の場合……と言われて、キラはどう反応すべきか悩む。
「まぁ、坊主の場合、自分のことをもう少し大切にしろと言う連中の意見には俺も賛成だな」
フラガにまでこう言われては、もう返す言葉がないキラだった。
そのまま二人のお小言――と言うよりはぼやきだろうか――を聞かされたまま、四人は第三デッキへとたどり着いた。そこには既にニコルとトールが着いている。
「一応、必要だと思われるものは持ってきましたが……何か足りないものはありますか?」
ニコルがこう言いながら、キラの前に持ってきた物を差し出す。
「……とりあえずはここの端末も使えると思うから、大丈夫だと思うけど……ブリッジの方は誰が?」
「クルーゼ先生の他にイザークとディアッカが。カズイさんは動力関係を確認してからこちらに回ってくるそうです」
キラの問いかけにニコルがいつもの口調で返してくる。
「って事は、今全員起きているってことか」
大丈夫か……と呟くフラガの言葉に、
「まぁ、これが終わり次第、俺たちは寝ますから……大丈夫じゃないかと」
多少の無理も今は必要だろうとトールが苦笑を浮かべた。
「第一、それを言うならお二人の方が無理をしているんじゃないですか? キラの体調を考えたら無理はないのかもしれませんけど」
一体いつ休んでいるのか、とトールがさらに付け加えれば、キラが顔をしかめる。自分が怪我をしたしわ寄せが二人に行っていることを気にかけていたのだ。
「……そろそろ僕もブリッジに戻りましょうか?」
座っていれば大丈夫だろうとキラが口にする。
「……それもなぁ……こいつらが許可を出してくれるんならかまわないんだが……」
フラガが視線を向けたのはカガリとアスランだ。
「お前は、どうせおとなしくしていないだろうが」
だからもう少しおとなしくしていろ、とカガリが付け加える。しかし、アスランはこれには同意をしてこなかった。
「確かに、これからのことを考えれば……キラにブリッジに戻って貰った方がいいんだろうな……俺が一緒にブリッジにいるようにすれば注意が出来るか」
無理をする前に止めればいいんだし……とアスランは呟く。
そんな二人の会話を聞かないふりをしてキラは準備を始めていた。
キラの手伝いをしながらニコルが微笑みながらアスラン達へと口を挟んでいく。
「そうですね。そのくらいなら、僕たちも協力できますし」
「キラの無茶を監視するのは、実は結構たいへんだぞ」
そんな彼にトールが声をかけた。
「時々、予想もしないような行動を取ってくれるから。まぁ、今は怪我をしているから咄嗟の行動が出ないだけマシだろうけど」
キラは要注意だぞ、と笑うトールに、キラは恨めしそうな視線を向ける。
「……人のこと言えないくせに……怪我はしないけど、ミスはよくしているよね、トールは」
せめてもの腹いせに、キラは手を止めずにこう言い返す。
「それでミリィによく怒られていたくせに……いっそ、ミリィにトールにいじめられたって訴えようかな、僕」
もちろん、ミリアリアにうんぬんは冗談だ。はっきり言って八つ当たりの一種なのだが、
「それだけはやめてくれ。キラをいじめたなんて知られたら……間違いなくふられる……」
それだけはいやだ、とトールが大げさな身振りとともに口にした。そんな彼の態度が周囲を和ませる。
「じゃ、早めに作業を終わらせて、二人きりになれるようにしてやろう」
それを受けて、フラガが笑いとともに言葉を口にした。
「ったく……本当にいつまでもキラのことを怒っていられないな、このメンバーだと」
カガリが苦笑混じりにこう口にする。
「仕方がない。監視付きでブリッジに行くことを認めてやるよ。そうすりゃ、みんなの負担が減るんだろう?」
これから何があるのかわからないからな、とカガリは付け加えた。
「そうしてもらえるとありがたいな」
俺としてもゆっくり眠れる……とフラガが会話に参加をしてくる。
「坊主がブリッジにいる時間には、俺たちも出来るだけ重なるようにするから」
それでは意味がないのではないだろうか。
この場にいた全員がそう思う。だが、それを口に出す者は誰もいなかった。