Runners
19
キラが示したこの船の武装は、フラガから見ても十分と言えるものだったらしい。
「これで、万が一の時も何とかなるか」
もっとも、そのためには誰かがそれを操作しなければならないのだが。
「だが、子供達にそれは扱わせられないぞ」
そんなフラガをいさめるようにクルーゼが言葉を口にし始める。
「もちろん、彼にもだ。出来ることなら、その時にはブリッジにいさせたくないのだが……我々がそちらの対応をしている間に船を任せられる人物が他にいないからな」
こうなるとわかっていたら、もう少し考えておくのだった……とクルーゼはため息をついた。
「仕方がないさ。いくらコーディネーターが13歳で成人とみなされるとは言え、俺らから見れば十分にオコサマだ。あの坊主にしても、かなり無理しているんだろうし」
本当はあいつも含めて守ってやらなきゃないんだがな……とフラガもため息をつく。
「それよりも、あのお嬢ちゃんの方はどうだったんだ?」
話題を変えるかのように彼はこう声をかけてきた。
「……あちらはあちらで問題だよ。よほど彼に対する告白が衝撃だったと見える。下手につつけば精神的にまずい状態になりかねないな」
落ち着くまでは手を出すことを避けた方がいいだろう……とクルーゼは淡々とした口調で言葉を返してくる。
「……ただ……」
「ただ、何なんだ?」
意味ありげに言葉を切るクルーゼに、フラガは眉をひそめつつ聞き返す。
「彼になら何かを話してくれそうは気配だったよ。もっとも、ミリアリア嬢だったかな。彼女との会話の様子から私が推測したものなのだが」
さて、どうしたものかな……とクルーゼは考え込むような表情を作った。
「坊主、まだ当分動かさない方がいいぞ」
「わかっているよ。ラクス嬢にも釘を刺された。だが、個人的に言わせてもらえれば、少しでも早く状況を知りたいと思うがな」
だが、それで彼に無理を強いるというのなら不本意だ、とクルーゼは付け加える。
「……お前にしては珍しいセリフだな。目的のためなら手段を選ばなかったのが、俺の知っている『ラウ・ル・クルーゼ』と言う奴だったはずだが?」
例え相手が少年であっても容赦しなかったはず……とフラガはクルーゼを見つめた。
「我々は彼に既に多大なる恩恵を被っている。ただそれだけだよ」
そんなフラガに、クルーゼは意味ありげな微笑みを返す。
「まぁ、そう言うことにしておこう。あぁ、ここからいじれる武器の他に作業用のパワードスーツもあるとさ。これならオコサマ達の中にも使える連中がいるだろうが……さて、どうしたもんかな」
オコサマ達を危険な目に遭わせるわけにはいかないだろうし……と考え込むフラガに、
「その時の状況次第だろうな。彼らにしても、自分の身を守る権利はあるのだから」
とクルーゼは言葉を返す。
「そうだな。とりあえず希望者だけ……と言うことにしておくか。ドンパチが本能的にダメだって言う奴もいるだろうし」
特にキラはダメだろう。相手の感情がわかってしまうのであれば、戦いなんてできるわけはない、とフラガは心の中で呟く。
「一番いいのは、事が起こる前にどちらかの救助隊が来ることだが」
「期待は薄いだろうな」
ともかく、最善だと思われる行動をするしかない……というのが二人の結論だった。
「……あの子にあわせてよ……」
食事を持っていったサイに向かって、フレイがいきなりこんなセリフを口にした。
「あの子って……」
「キラ・ヤマトよ」
きっぱりと言い切るフレイに、サイが思わず視線を向ける。まさかと彼の瞳が告げていた。
「……フレイ……キラにまた何かする気なのか?」
自分だけは彼女を信じてやらなければ……と思っているサイだった。だが、こう言ってしまうのはこの前のことがあるからだろう。
「……もう、しないわ……ってできないでしょう。どうせ」
一人で会わせてくれないのはともかく、近づかせてくれるわけもないでしょう、とフレイは口にする。
「それは当然だと思うよ、俺も」
あの一件に関してはサイも怒っているのだ。そのせいか、フレイにかける声がきつくなる。
「フレイは、キラを殺そうとしたんだから。自分勝手な言い分で」
自分の大事な友人を……というセリフは口にしなくても彼女には伝わったようだ。ふっと目を伏せる。
「だって……ずっとあいつらはナチュラルが作ったものだから、好きにしていいんだって言われてきたのよ……」
それがいけないことだなんて思わなかったのだ……とフレイが呟くように言った。その言葉にいつもの力が感じられないのは、彼女の中で葛藤があるからなのだろうか、とサイは思う。
もし、これでコーディネーター――それは無理でもキラ――をフレイが『人間』として認めてくれるなら……とサイは思わずにはいられない。そうすれば、キラは間違いなく彼女を許してくれるだろう。今ですら、キラはフレイを心配するような言動を見せているのだから。
「……会って……どうする気なんだ?」
自分がキラにフレイにあって欲しい……と言った場合、彼は頷いてくれるだろう。しかし、他の者たちがそれを認めるか、と言うとまた別の話だ。
「聞きたいんでしょう? 私がどうやって連絡を取っているか」
そして、これから何が起きようとしているのか……と彼女は吐き出すように口にする。
「フレイ……」
まさか、彼女がそれを口にしようとするとは思わなかった、とサイは目を丸くした。
「何よ。いけない?」
そう言っている彼女の声が震えている。
おそらく、彼女の中の葛藤が表に出ているのだろうとサイは判断をした。
「……わかった……出来るだけ早くキラと話せるように頼んでみるよ……ただし、二人だけって言うのは」
「いいわよ。あいつらがこなけりゃ」
キラ以外はナチュラルにしろ……という主張はあくまでも彼女らしいものだ。
それはある意味見事かもしれない。
サイはそれにため息だけで答えた。