Runners
17
「……そうか……みんなばれちゃったんだ……」
シーツの上に体を横たえながら、キラは小さくため息をつく。
「すまん、キラ……怒りに目がくらんで……」
カガリが肩を落としながらキラに謝罪の言葉を告げた。彼がその事実を他人に知られることを嫌がっていると一番知っていたのは自分なのに、と。
「すんじゃったことは仕方がないよね」
だから、気にするな……とキラが微笑めば、カガリが辛そうに目を伏せる。
「怒ってくれた方が、気が楽なんだがな……」
そして、呟くようにこう口にした。それが彼女の本心だと言うことはキラにもわかっている。と言うより、彼女はいつも自分に対して慚愧の念を隠せないようなのだ。その理由もわかってはいるが、カガリが気にするようなことではないとキラは思う。
「だって、僕のためだったんだろう? だから、気にしなくていいって」
ね、と口にしながらキラは枕元に置かれたカガリの手をそうっと握る。
「それよりも……やっぱりみんなの前には極力行かない方がいいよね……気持ち悪いだろうから」
そのまま、こう言ったときだった。
「何で?」
アスランの不思議そうな声がキラの耳に届く。視線を向ければ、彼だけではなく他の者たち――何人かかけているのはブリッジに詰めているからだろうか――もそこにいる。
「やっぱり思った通りだったね。キラの性格からすると、全部自分のせいにしちゃうんだから」
わざとらしいため息とともにアスランがこう言えば、
「お前の治療データーのおかげで、あのガスに対する薬が出来たとクルーゼ先生から聞いた。なら、俺たちとしては感謝しても排斥する理由にはならないな」
とイザークも付け加える。
「そうですよ、キラさん。何なら、帰ったらプラントに来てください。みんな歓迎しますって」
何なら、そのままいてくださってもいいですよ……とニコルが付け加えた瞬間、カガリが彼を睨み付けた。
「誰がお前らにキラを渡すか!」
「そうだよ!」
カガリの言葉に呼応するように叫んだのはカズイだった。
「俺はまだ、キラに教えて欲しいことがたくさんあるんだからさ」
コーディネーターに対し、一番拒絶反応を見せていたはずの彼のこのセリフに、その場にいた誰もが驚きの視線を向ける。
「……なんだよ……俺がそう思っちゃいけないのか?」
「いや……ちょっと驚いただけだって」
なぁ、キラ? とトールがキラに話題を振ってきた。
「……でも、本気で言ってくれているから、嬉しい方が先に来るけどね、僕は」
キラは微笑みながらこう言う。どうやら、ばれてしまった以上開き直ることにしたらしい。
「なるほど。嘘を付いているかどうかもわかるんだ……って事は、次にキラの講義を取ったら課題だけはまじめに出さないといけないってことだな」
適当ないいわけをするとばれるのか……とトールがまじめな口調で呟く。
「……待てよ……実は今まで言ってきたあれやこれやの嘘も実はばれてたってことか?」
「……そう言う、ことになるんだよな、今のセリフだと……」
トールとカズイは顔を見合わせながら顔を蒼くしている。どうやら、かなり適当な嘘を付いて提出を待って貰ったことがあったらしいと、その場にいた誰もが判断をした。
「キラ、すまん……だまされてくれてたんだよな、お前」
「しかも、内緒にしていてくれたんだろう?」
ありがとう……と声をそろえて言う二人に、キラの口元に自然な笑みが浮かぶ。
「別にとがめるほどことじゃないし……そのくらいは普通だからね?」
気にしないで、とキラは微笑みながら告げる。
「キラ〜〜!」
「ありがとう」
だが、二人にはそれで十分だったらしい。カガリを押しのけるようにして、キラに抱きつく。
「……ちょっと、痛いって……」
くすくすと笑いながら、キラはそんな二人を抱き返す。
「いい友達のようだな」
ちょっと妬けるが、うらやましいか……とアスランは小さく呟く。
「まぁ、キラ、だからなんだろうが……しかし、止めなくていいのか、あれは」
あのままだとまた傷が開くぞ、と冷静な口調でイザークが指摘をした。しかし、彼自身は動こうとはしない。どうやら、このまま成り行きを見学するつもりらしい。
「カガリさんが止めますよ、きっと」
ニコルも同様だ、と知って、アスランは思わずため息をついてしまう。
「お前ら! いい加減にしろ!」
だが、彼らの予想通りカガリがトール達をキラから引きはがしにかかる。
そんな彼らの行動は、本当にただの友人としか言いようがないもので、コーディネーターとナチュラルの垣根など感じられない。それがそもそもの目的であったのだ。
「……彼らとなら仲良くなれそうですけど……」
ともかく、無事に帰り着いてからですね……と言うニコルの言葉に、アスラン達も無言で同意を示した。