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 人気のない艦内の一角に小さな展望室がある。
 おそらく、フレイは一人でいる時間、船内をさまよってここを見つけたのだろう。そう考えた瞬間、キラは小さなため息をついてしまった。
『キラ?』
 キラが身につけているマイクがしっかりとそれを拾い上げたのだろう。アスランの声がキラの耳につけられたイヤホンから響いてくる。
「何でもない……それよりあんまり話しかけられるとばれるんじゃないかな」
 キラの安全を確保したいという他のメンバーのこれは苦肉の策だったと言っていい。あるいは妥協範囲と言うべきか。
 キラに何かあったらすぐに駆けつけられるように、展望室の側の部屋にアスラン達が隠れている。同時に、ブリッジからここの中の状況を見ることが出来るようにモニターの調整を行った。本当はもっとあれこれしたかったのだが、そこまでする時間がなかったのだ。
 キラにしてみれば大げさな、と言うところではある。
 だが、そうしなければフレイとの話し合いを許可してもらえなかったのだから仕方がないとあきらめていた。
「本当、みんな過保護なんだから」
 もちろん、このセリフも彼らにはしっかりと届いているだろう。それがわかっていても言わずにはいられなかったのだ。
『……そりゃ、キラを見ていればねぇ……』
 即座に笑いを含んだ声が戻ってくる。どうやら、アスランだけではなく他のメンバーにも笑われているようだ。複数の笑い声がそれを伝えてきている。  だが、それに関して文句を言うことはキラには出来なかった。誰かが近づいてくる気配が伝わってきたのだ。
「フレイ?」
 自分を呼び出した相手だろうか……とキラは視線を向ける。すると、薄暗がりの中からゆっくりと細い少女の体が現れるのが見えた。その頬は、初めてあったときに比べてかなり丸みが失われている。その事実にキラは思わず目を丸くしてしまった。
「……まさか……本当に一人で来るなんて思わなかったわ……」
 呟くように吐き出された声は、嫌悪であふれている。
 それでも、彼女はまっすぐにキラの方へと近づいてきた。
「一人で来い、って言ったのは君だろ?」
 キラはそんなフレイに向けて微笑みを浮かべる。
「驚いた……そんな表情も出来るのね……」
 だが、それに対して彼女の口から出たのは、こんな言葉だった。
「フレイ?」
 一体どうして彼女がそう言うのか、キラのは今ひとつ理解できない。と言っても、思い当たることがないとは言えなかったが。だが、それについて知っているのは本当に限られた相手だと言っていい。
「ただの化け物のくせに」
 フレイが投げつけた言葉がキラにまさかという思いを与えた。
 フレイは『コーディネーター』を嫌っているから、きっとそのことを言いたいのだろう。キラは必死にそう思いこもうとした。
「……コーディネーターは化け物じゃない。ナチュラルと同じ『人間』だよ」
 そして内心の動揺を隠して、こう口にする。
「あいつらだって、化け物よね……でも、あんたほどじゃないわ」
 だが、フレイはさげすむような笑みとともにこう言い切った。
「だから、あんたは実の両親からも捨てられたんでしょう?」
 違うの? と彼女はせせら笑う。
 そんな彼女の言葉に、キラは何も言い返すことは出来ない。
 一体どこまで彼女が『真実』を知っているのかわからないのだ。
 それ以上に、どうして彼女がそれを知っているのか、と言う思いの方が強かった。この船に乗り込んできたときの彼女は何も知らなかったはずなのに、と。
「他のみんながそれを知ったらどう思うかしらね」
 フレイはそんなキラを追いつめるかのように言葉を次々と投げつけてくる。
「何のことかな? 考えてみたんだけど、思い当たること、何もないんだよね」
 さらに笑みを深めるとキラは冷静さを装って言い返す。
「白々しいわね。本当、あんたみたいな物見ているといらいらするわ」
 そんなあんたに頼らなければならない状況はもっと気に入らない……と付け加えながら、フレイはゆっくりとキラに近づく。
「でもね。ようやく連絡が来たの。助けに来てくれるって……だから、もうあんたはいらないのよね」
 その手の中に何かが握られている。
 それが何なのかまではキラの位置からはわからない。
『キラ! 今アスラン達が行ったから!』
 イヤホンからトールの声が届く。
 しかし、キラはそれに答えることが出来なかった。
 フレイの動きに集中しなければならないのだ。彼女が自分をどうしたいのか、と考えれば答えは一つしか出てこない。だが、それは間違いなく彼女を追いつめてしまうことになるだろう。
 同時に、自分のことを知っているカガリがどうなるか。
 二人のことを考えると、フレイに何もさせるわけにはいかない。
「……フレイ……後で後悔するよ、きっと……それに、サイが悲しむ」
 ともかく、彼女が自主的にやめてくれないか……と期待をしてキラはこう口にした。
「後悔なんてするわけないじゃない。あんたがいなくなれば、全部終わるんだから」
 言葉とともに、フレイは笑みを浮かべる。それは本当に幸せそうなものだと言ってもいい。だが、同時にそれは彼女がそこまで追い込まれていた……と言うことでもあるのだろうか。
「だから、ちゃんと消してあげる」
 そう言いながら、フレイは手の中の物を握り直した。
「……どこからそんな物を……」
 この船には積まれていないはずの小型のレーザーガン。
「どこからだっていいじゃない。どうせ、知ったところであんたはどうしようも出来ないんだから」
 違うの、と付け加えながら、フレイはキラに向かってそれを構えた。
「キラに何をするんだ!」
 言葉とともにカガリが飛び込んでくる。
「うるさい!」
 だが、それが逆効果だったらしい。フレイは反射的に引き金を引いてしまう。そして、一条の光がキラへと向かう。
「キラ!」
 アスランの叫びがキラの耳に届く。
 同時に、左の脇腹に焼け付くような痛みをキラは感じていた……





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