Runners
14
トールの予想通り、呼び出されたサイとアスランの他に、しっかりとカガリも駆けつけてきたのはそれからすぐのことだった。
「……一体何を考えているんだ……」
メモを見たサイがため息とともにこう呟く。
「お前がわからないなら、俺たちは余計にわからないと思うぞ」
そんな彼に向かって言葉を発したのはいつもの通りトールだ。
「……キラ、どうする気だ?」
アスランがキラへと問いかけてくる。その瞳の奧に『迂闊なことはするなよ』と言うセリフが見え隠れしていることにキラは気づいていた。
「……行ってみようと思っている……」
それでもキラはこう口にする。
「キラ!」
「無謀だ!」
予想通りというかなんというか。アスランとカガリが左右からキラを怒鳴りつける。
「わかっているけど……行かないときっとフレイ、心を閉ざしちゃいそうな気がするんだ……」
そうしたら、彼女は絶対に自分たちを認めてはくれないだろう。それどころか、排除をするために動くかもしれない。キラが一番心配しているのはその可能性だった。
「……そうさせたくないんだよ、僕は」
もし、あの時アスランに会わなければ自分がそうだったかもしれない。キラが心の中で呟いたセリフを彼が気づいたのかどうか。
「……本当にキラは……」
ため息とともにアスランがキラの頭を撫でる。
「昔から妙なところで頑固なんだよな」
一度言い出したら引き下がらない、とそのままため息をつく。
「あぁ、そうだよな。キラって、ものすごく頑固だよ。レポート提出の時にそう思った」
「あれだろう? 既に伝説になっている一件」
「やっぱ、サイも知っていたか」
二人の会話に、キラは思わず固まってしまう。
「何かあったのか?」
興味を惹かれたというようにアスランが二人に声をかける。いや、それはアスランだけではなかった。
「私も聞きたい!」
カガリもまた目を輝かせてこう問いかけている。口には出さないがニコルも同じ思いらしいことが彼の表情からわかってしまった。こうなるとキラがいくら嫌がってもトール達が話してしまうに決まっている。
「俺たちの先輩がな。だめだしされたレポートを無理矢理受け取らせようとキラに色仕掛けをしかけたんだが、絶対受け取らなかったんだと」
「あのころ、まだ15になる前だろう? 確か、目撃した奴がキラが襲われているって大騒ぎしたんだよな」
「そうそう。相手の方が年上で、しかも体格がよかったから、どう見てもそうにしか見えなかったって言う話でさ」
二人が喜々として話している内容に、キラは体を縮め、アスラン達は呆然と言うのが一番しっくり来る表情を浮かべていた。
「……キラ、お前……」
女にも負けるのか……とカガリが言いかけてやめる。どうやら、その気になればキラは大人にも勝てるが、相手を傷つけたくなくて手を出さなかったのだろうと理解したらしい。それでも自分を見つめてくる彼女の瞳が険しいのは、間違いなくあきれているからだ、とキラは判断した。
「……それって、あの方も知っているのですか?」
ニコルが他のメンバーとは違ったニュアンスで問いかけてくる。
「知っているはずだぜ」
「あぁ……キラの顔は知らなくても、噂だけは広がってたからな」
キラにしてみれば不本意だろうが……とサイが付け加えた。それ以上に、キラとしてみればカガリの反応が怖いと思ってしまう。
「……その話、私は聞かされていないよな?」
キラの予想通り、カガリは怒りを隠せないと言う声で確認を求めてくる。
「忙しくてすぐに忘れちゃったからね」
覚えていても不快なだけだしとキラは誤魔化すことにした。もっとも、それで納得してくれる性格をカガリがしていないことは知っていたが。
「それより、何か気にかかることでもあるの?」
睨み付けてくるカガリを無視して、キラはニコルに声をかける。
「……まさかと思いますけど……その人と同じことをしないといいなって」
あははははと笑いながら告げられた言葉に、カガリとアスラン、だけではなくサイやトール達まで顔を見合わせた。
「……その可能性がないとは言い切れないか……」
そうすれば、この船を自分の思い通りに出来るから、と彼女が考えたとしてもおかしくない、とアスランが口にする。
「でも、サイの婚約者だろう?」
「……フレイならやりかねない……最後まで行かなくても、事実があればいいんだから……」
キラの性格なら、それでも十分脅しになるだろうし、欲しい物に関してはなりふり構わない性格だから……とサイは吐き出す。
「それがわかっていても行くんだよね、キラは……」
困った性格だよ、とアスランがため息をつく。
「……坊主がどこに行くって?」
一体いつブリッジに上がってきたのか。
彼らの背中に向かってフラガの声が投げつけられる。
「お前ら、雁首並べて何やっているんだ」
同時に、彼とともに機関室へと様子を見に行っていたイザークも不審そうなまなざしを彼らに向けた。
「……ちょっとね……」
彼らに説明するとなると、またちょっと厄介な問題が起きそうだな、とキラは思う。思うが、説明をしないわけにもいかないだろう。
「実は……」
そして、あきらめたように口を開いた。