Runners
12
「……キラ、お前……またやせただろう!」
ミリアリアを探して食堂に足を踏み入れた瞬間、カガリのこんな声が飛んでくる。いや、飛んできたのは声だけではない。彼女本人もキラのまえに仁王立ちになっていた。
「そ、そうかな?」
苦笑とともにキラは彼女の言葉を否定しようとする。
「やせたわよ、間違いなく」
「そうですわね。お顔の色もお悪いですし」
だが、カガリだけではなく他の二人にまで言われては、キラに逃げ道はない。
「ちょっと忙しかったのは事実だけど……」
それでも、なんとか三人の追求から逃れないと……と思ってキラは苦笑を浮かべつつ言葉を口にした。
「……それについては……どうしてもキラに負担が行ってしまうから……」
申し訳ないと思っているんだけど……とため息をついたのはミリアリアだった。
「そうだな……困ったことに、そればかりは私も代わってやれんし……」
他のことならいくらでも代わってやれるんだが……とカガリもため息をつく。
「ともかく、キラ様にはしっかりとお食事をして頂くことにいたしましょう?」
ね、と二人を慰めに回ったのはラクスだった。そのふわふわとした優しい雰囲気は、キラの心をほっとさせてくれる。
「……あのさ……なんか、甘い飲み物ってあるかな?」
そのせいだろうか。こんなセリフが自然にキラの口からこぼれ落ちた。
「甘い飲み物ね? わかったわ」
キラの口から出た珍しいセリフに、ミリアリアが即座に動き出す。
「ついでに、ちょっとつまむ? クッキーを焼いてみたの」
「私とラクスが教えて貰ったんだ。味付けはミリィだから安心しろ」
だから、ちゃんと食べろよな……とカガリは付け加える。どうやら、それを全部食べ終わらないうちは解放して貰えないらしい、とその表情からキラは判断する。
「形は少々見栄えしないかもしれませんが」
ラクスが苦笑とともにさらに言葉を口にした。
「気にしませんから」
そんな彼女に向かって、キラはつい微笑みを返してしまう。
「……私相手の時とずいぶん態度が違うじゃないか」
カガリがキラの隣に腰を下ろしながらむっとした表情を作った。
「だって……カガリの料理ってすごかったじゃないか……」
それを食べさせられた身としては……とキラはわざとらしくため息をつく。その瞬間、カガリの口元に苦笑が浮かんだのは言うまでもないだろう。
「大丈夫よ、キラ。カガリさんもかなりお料理が上手になったから」
それをフォローと受け止めていいのだろうか。
差し出されたカップとお菓子を受け取りながらキラは苦笑を深める。
「……で? 本当のところは、誰かに何か用事があったんじゃないの?」
キラの向かいに腰を下ろしながら、ミリアリアが微笑む。
「……わかっちゃった?」
上目遣いでこう問いかければ、
「わかるわよ。でなければ、キラが一人で食堂に来ることないじゃない」
くすくすと笑いながらミリアリアが応えた。
「……実は、ミリィに頼みたいことがあって……」
声が小さくなってしまうのは、彼女にこれ以上負担をかけていいものか……と思ったからだ。
「何?」
「……フレイのことなんだけど……」
そう言いながらキラはミリアリアの顔を見つめる。
「ちょっと不安定なようだから、気をつけていて欲しいんだ。何か、おかしい様子が見えたら教えてくれると嬉しいかも……」
監視させているみたいで申し訳ないんだけどね、とキラは付け加えた。
「……やっぱり……サイ達からも同じ事を言われたの」
だが、ミリアリアの答えはキラが予想していなかったものだった。
「サイ達も?」
「えぇ……そこまでキラに負担をかけるわけにはいかないだろうからって……」
実際、キラ、疲れているようだし……とミリアリアが微笑みに苦いものを含ませる。
「それに、やっぱり、女の子同士の方がいいでしょうからって」
「……それに関しては、カガリが役に立たないしね……」
カガリがフレイと仲良くしれくれれば、ミリアリアの負担も減るだろうに……とキラは言外に付け加えた。それに関して反論が来ないところを見ると、カガリにしても二人に負担をかけてしまうことに関しては申し訳なく思っているのだろうか。
「大丈夫よ。最近は時々ここにも顔を出すようになってきたし……ね」
「そうですわね。あとはもう少し私になれていただければ……」
ここにいてくださるでしょうに……とラクスが肩を落とす。
「ラクスのせいじゃないな。あれは彼女の偏見のせいだぞ」
「そうよ。気にしないで」
落ち込んでしまったラクスを見て慌てて残りの二人が慰め始める。その光景に、キラは少しだけうらやましいと思ってしまう。
「……それでも……僕が選んだことだから……」
呟いた言葉は、キラの口の中で消えた……