Runners
11
いつまでもフラガとクルーゼには黙っているわけにはいかない。
フレイが何を考えているのかわからない……という理由はもちろんある。それ以上に、自分の経験だけでは処理できないとキラは思う。だから思いきって、彼らにフレイのことを相談することにした。
サイ達から聞いた話だけではなく、自分たちが目撃したことも隠さずに口にする。
「あのお嬢ちゃんなら……納得だな……」
「……アルスター議員だったな、彼女の父親は」
どうやら、自分が知らない何かを二人は知っているらしい。キラは彼らの反応からそう判断をする。
「……フレイの、お父さんが何か?」
そして、それは彼女の父親に関係しているのだろうとキラは思う。
「彼は……裏ではコーディネーター排斥派の一員だよ」
「表では親コーディネーターを口にしているがな」
いやだねぇ、裏表のある大人って言うのは……とちゃかすように口にするフラガを、クルーゼがあきれたように見つめている。
「つまり……フレイがお父さんに何かを言われてきたかもしれないと?」
そんなことがあるのだろうか。自分の娘を危険にさらすような真似を実の父親がさせるのだろうか、とキラは思った。例えどのような子供でも慈しんでくれるのが『親』と言うものなのではないだろうか、と。
「それはないだろう。ただ一人のお嬢さんだという話だ」
だからアルスター議員が彼女を危険な真似にさらすようなことはしないだろう……というのがクルーゼの意見だった。その事実にキラは少しだけほっとしたような表情を作る。
そんな彼の様子にフラガとクルーゼは視線で会話を交わしあう。
「だが、彼女の言動には注意が必要か……かといって、閉じこめるような真似はしたくない」
「かといって、監視をつけるわけにもいかないだろう?」
そんな人手は今の自分たちにはないしな、とフラガが苦笑を浮かべる。
「そのことですが……お二人の賛同をいただけるのでしたら、重要部分には登録されたIDを持った人間以外は入れないようにロックしてしまおうかと。必要なときには、お二人にもご迷惑をかけることになりますが……」
つまり、この場にいる3人のID以外は無効にしたいのだ、とキラは付け加えた。
「いや、妥当な線だろうな」
だが、フラガはあっさりと頷いてみせる。
「彼女一人……というのであれば刺激をするだけだが、我々以外全員であればそうでもないだろう」
クルーゼもまたそれが妥当だろうと口にした。
「では、そのようにさせて頂きます……彼女については……ミリィに様子を報告してもらえるように頼んでおこうかと思うのですが……」
彼女とはフレイも仲がいいし、そもそも同室だから何かあったらすぐに気がついてくれるのではないか……とキラは言外に付け加える。
「ただ、そうするとミリィの負担が大きくなるかなっとも心配なのですが。でも、他の二人ではちょっと……」
フレイが警戒をしてしまうだろうと口にしなくても、二人にはわかったようだ。
「ラクス嬢はコーディネーターだから納得できるとしても、カガリ嬢でもダメなのかね?」
ナチュラルなのに、とクルーゼに問いかけられて、キラは思わず苦笑を返してしまう。
「どうもカガリは、フレイのいかにも『女の子』と言う態度がダメなようで……ラクスみたいにどこか芯が通っていればいいんだそうですが」
そして、カガリから聞かされた愚痴の一部を彼らに教える。
「なるほどねぇ……あの男っぷりからして当然と言えば当然か」
納得したと言うようにフラガが頷いた。もっとも、そのセリフもかなり問題があるような気がするのはキラの気のせいだろうか。
「だから貴様は女性陣に受けが悪いのだよ」
だが、クルーゼのこの言葉でそうでもないのだとキラは安心する。
「そうなのですか?」
さすがにその手のことは言われても理解できない。きょとんとした表情を作るキラに、クルーゼだけではなくフラガも驚いたようだ。だが、すぐにフラガの口にはおもしろいおもちゃを見つけたときのような笑みが浮かぶ。
「オコサマが勉強だけじゃダメだろうが。ちゃんと人生経験をだな」
「そこまでにしておけ。お前の場合は反面教師にしかならんだろうが」
それとも、皆の前であれこれ暴露して欲しいのか、と言われた瞬間、フラガが口をつぐむ。どうやら、他人に知られるとやばいことをフラガはいくつもクルーゼに握られているらしい。
「仲がよろしいんですね、お二人とも」
キラが感心したように言葉を口にする。その瞬間、二人とも同時に嫌そうな表情を作った。
「あの……何かいけないこと言ったでしょうか?」
二人のその態度にキラは思わず不安になってしまう。
「あぁ、坊主が気にすることじゃない」
「ちょっと見解の相違を感じただけだ」
二人がほぼ同時に口を開く。
「負担、と言えば、お前さんもあんまり無理をするなよ。船を動かすだけなら俺らでも出来るが、システムとなるとお前さん以外に触れられる者がいないんだから」
話題を変えようとするかのようにフラガが言葉を投げかけてくる。
「それが僕の役目ですから」
キラは、彼らに向かって曖昧な微笑みだけを返すと立ち上がった。
「ミリィと話をしてきますね」
そして、それ以上の追求から逃れようとするかのようにブリッジを後にする。そんな自分の背中を二人の視線が追いかけてきていることにキラは気づいていた。