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 結論から言ってしまえば、ログには何も残っていなかった。ただ、端末を操作しようとしていた彼女の姿は監視装置に残っていたが……
「……どうしようね、これ……」
 これだけではフレイをどうこうするすることは出来ないだろう。
 だからといって、立ち入り禁止となっている場所に足を踏み入れた彼女を見逃すわけにもいかない。
 だが、キラはまだそれをフラガ達に伝えることが出来ないでいた。
「ミリィになら、フレイも何か話してくれるのかな? それとも、サイの方がいいのか」
 自分では絶対ダメだ、と言うことをキラは知っている。彼女にとって『コーディネーター』こそが諸悪の根元だからだ。
 かといって、カガリでもダメだろう。
 彼女はキラに近すぎる。だから、フレイの気持ちを理解することが出来ないのだ。
「……とりあえず、二人を捕まえて……フレイに気をつけてもらえるように頼まないと……」
 彼らなら大丈夫だろう、と呟きつつ、キラは立ち上がる。そして、手を伸ばして上着を取り上げると自分に割り当てられた部屋から通路へと出た。
「キラ!」
 それと同時に声をかけてくる者がいる。
「何? アスラン?」
 そう言いながら視線を向ければ、彼だけではなくサイやトール、ニコルの姿が見えた。
「みんなそろって……何かあったの?」
 その事実に、眉を寄せながら問いかければ、彼らはどうしようかというように視線を合わせている。
「……フレイのことで……ちょっと相談したくて……」
「本当はミリィも……って言っていたんだけど……今、フレイが食堂の方にいるからさ……」
 口を開いたのはトール達だ。
「そうなんだ……僕も今そのことでみんなに相談を持ちかけようと思ってたんだ」
 彼らもフレイについて何かを感じているらしい。そう判断したキラはどこかほっとしている自分に気づいていた。
「……僕の部屋でいい?」
 と言っても、通路で出来る話ではない。かといって、フレイがいるのであれば食堂は無理だ。フラガ達にもまだ知らせたくない事実もあるし……
 そう考えてキラが導き出したのは自分の部屋だった。
「そうだね。それがいい」
 キラは一人部屋だし……とアスランが頷く。
「……僕はみんなと一緒でもいいんだけどね……」
 さすがに女の子達と同室というのはまずいだろうけど、と口にしながら、キラは今出てきたばかりのドアをくぐる。
 その後をアスラン達が追いかけてきた。
「仕方がないよ。キラは先生達と一緒でゆっくり休憩を取る必要があるんだから」
 操船に支障が出たら大変だし……とアスランが口にすれば、
「そうだよ。今キラに倒れられたら大変なんだから……みんなわかっているって」
 サイも同意だと告げてくる。
「ずいぶん……仲良くなったね」
 そう言っていいのかどうか悩んだものの、キラは言葉を口にした。
「この二人は付き合いやすいから」
 思った以上にナチュラルに対する偏見を見せないんだよな、とトールが笑う。
「だって、みんなキラの友人だし」
「そう言う皆さんだって、コーディネーターに対する嫌悪感がないでしょう?」
 即座にアスランとニコルが笑い返す。あくまでも彼らは『キラ』と言う共通の知人がいるからこうして仲良くしていられるのだろう。そんなささやかな好意でも最初の一歩なのではないだろうか、とキラは思う。
「残りの二人にしても、まぁ、それなりに、な」
 だから、それについては心配いらない、とアスランは笑った。しかし、その表情もすぐに消えてしまう。
「だから、余計に彼女の問題が目立つんだ……」
 そして今までとは違った、堅い口調でこう告げる。
「何かあったの?」
 適当に座ってと身振りで告げながらキラは問いかけた。どうやら彼らの口調からすると、まだ昨日の行動については知られていないらしい。誰にも言わないで欲しいというキラの願いをイザークが守ってくれていると言うことだろう、それは。
「あった……と言うほどじゃないけど……」
 言いにくそうにサイが口を開く。だが、すぐに困ったというようにトールへと視線をながした。
「最近、とみにセリフがやばくなっているかなって……」
 その内容がどのようなものなのか、と言うことを口にしない彼らの態度から、だいたいの事情が飲み込めてしまう。あるいは、昨日の行動もそれに関係しているのだろうか……とキラは思った。
「……サイ……」
 今ならフレイのレベルについて問いかけても不審がられないだろうか。そう思いながら、キラは彼女についてこの中で一番よく知っているであろう相手に呼びかける。
「ちょっと確認しておきたいんだけど……」
 それでもまだためらいがあるのは、自分がフレイを疑っているからだろうか、とキラは思う。だが、それでも聞かないわけにはいかない。
「何だ?」
「……フレイって、かけてあるロックとか、自力ではずせるかな?」
 その問いの理由がわからないのだろう。彼は眼鏡の下の瞳を細める。
「どうして、って聞いてもかまわないか?」
「……フレイが情緒不安定なら、入って欲しくないところにロックをかけておこうかと……また万が一のことがあったら困るかなって」
 特に機関部とか……とキラが付け加えれば、サイはとりあえずほっとしたような表情を作った。
「俺が知っている限りは無理だと思うけど……」
「わかった……一応、お二人と相談して、ちょっとロックの強化をするかもしれない……」
 みんなも了承しておいてね、と付け加えれば、この場にいた全員が頷く。
「ともかく、出来るだけフレイを一人にしない方がいいよね。でも、僕たちじゃ無理だから……」
「わかっている。俺たちが出来るだけ面倒を見るよ。ただ、相談や愚痴には付き合ってくれ」
 トールのセリフに、キラは笑顔を作ると頷いた。





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