Runners
8
全員が元通りブリッジに戻ったのは、それから30分後のことだった。
「とりあえず、食料関係や医薬品関係は無事だった。しばらくの間野菜が不足するかもしれないが、栽培を開始すればすぐに大丈夫だろう」
カガリの言葉に、一同は少しだけほっとした表情を作る。どうやら、だれにとっても『食事』は重要な問題らしい。
「もっとも、調理に関しても、しばらくは誰かに作ってもらわないといけないだろうけど」
キラが居住区の状況を報告すると、その表情が崩れる。
「……だれが作るんだ?」
真っ先に口を開いたのは、カガリだった。それに、
「大丈夫。だれもカガリに作れ何て言わないから。それくらいなら、僕が作った方がいいだろう?」
キラがからかうように言い返す。それが、周囲を明るくしようとしてのセリフだ、とだれもが理解をする。
「……ナチュラルが作ったものでもかまわない……とそちらの方がおっしゃるのでしたら、私が作りますけど?」
ミリアリアが控えめな態度で名乗り出た。
「ミリィの料理はおいしいのは、俺たちが保証する」
即座にトールがこう言えば、彼女の料理を食べたことがあるメンバーが一様に頷く。その中にキラの姿もあったので、アスラン達としても認めてもいいかという気持ちになった。彼がどちら側にも公平に接していると言うことは、この短い時間の間でも伝わったからだ。
「食べられるものを作ってくれるなら、俺はかまわん」
イザークの言葉が、ミリアリアの提案を認めるという、彼にとっては精一杯のものだ、と知っているアスランは苦笑を浮かべた。
「でも、ミリィ一人だと大変じゃない?」
キラがなんなら自分も……と言い出す前にあわってカガリが口を開く。
「……材料を切るくらいなら、私でも出来る……と思うが」
「私も、教えて頂ければお手伝い程度は出来るのではないかと」
ラクスもおっとりとした口調で主張をする。どうやら、女の子達三人は今の時間だけでうち解けたらしい。
「大丈夫よ。私がちゃんと面倒を見るから」
任せておいて、とミリアリアに微笑まれては誰もそれ以上異論を挟めなくなってしまう。
「じゃ、俺は調理器の修理に回るかな……カズイ、手伝ってくれるだろう?」
「いいけど……他にもいくつか直さないといけないものがあったが」
カズイは素直に同意を示す。
「……僕も手伝おうか? 人手があった方がいいだろう」
そう言ったのはアスランだ。そのセリフにカズイは一瞬ひるんだ様子を見せる。
「だよな。でもいいのか?」
だが、トールは気軽に言葉を返した。こちらもどうやらそこそこ相手を認め合っているらしい。
「かまわないさ。ディアッカ?」
手伝うよな、と視線を向けられた彼は、渋々といった表情で頷く。
「力仕事だろう? 飯がかかっているなら手伝うしかないだろう」
そちらのお嬢さん達だけに手間をかけさせるわけにはいかないから……と付け加えるディアッカに、それでもアスランは満足そうな表情を作った。
「と言うわけだから、キラはブリッジの方に専念すればいい。先生達がいるとはいえ、どう考えてもここが一番手薄になりそうだ」
資格がない人間が迂闊に手を出せる場所でもないだろう、と言うアスランに、キラは頷く。
「……資格って、どの程度あればいいんだ?」
今まで黙っていたイザークが口を挟んでくる。
「クルーザー程度でいいなら、俺もライセンスは持っているぞ」
その言葉に、キラはクルーゼとフラガへと視線を向けた。
「人手が足りないのは事実からな。監視付きなら大丈夫だろう……と言っても、そっちの坊主だけじゃ無理だな」
それにちょっと考え込んでいたキラがふっと思いついたよう口を開いた。
「サイのライセンスも、指導教官がいれば十分使える範囲内じゃなかったっけ?」
「あれでいいのか?」
キラの言葉に、サイが驚いたように聞き返してくる。
「非常事態だし……お二人は一種ライセンスだから、十分指導教官の役目を果たせるはず」
「なら、僕もまだ完全じゃないですけど、お手伝いさせてください」
そう言いながら手を挙げたのはニコルだった。
「修理が終わってしまえば、俺たちも手伝えるけどな……」
アスランも口を挟んでくる。
「逆でいいんじゃないのか? ブリッジは交代制だろう? その合間に修理を行うことにすればいいだろう」
それにサイが提案を返す。そんな彼らの中には、とりあえず協力しようという態度が見えた。それはそれでいいことなのだろう、とキラは思う。
「じゃ、とりあえずはそう言うことにしようか」
とりあえず自分たちの役目を見つけたメンバーの中で、フレイだけがなにもすることがない。そんな彼女をどうするべきか、とキラが視線を向ける。しかし、フレイはその視線から逃げるようにブリッジを出て行った。