Runners
7
コンピューターがはじき出した位置は、ヘリオポリス――もしくは他のプラントまで――の帰還に約3ヶ月かかる場所だった。
即座に連絡を入れたが、それすら届くのにかなりのタイムラグが必要だった。
つまり、救助が来ることはあてにできない。自力で救助してもらえる場所まで移動しなければならない、と言うことだ。
「……まぁ、パイロットはいるし……何とかするしかないんだろうな……」
その事実に、フラガが小さくため息をつく。
「システムは生きていますし……操船だけであれば、一人でも何とかなるようにOSは作ってありますから、操船面では問題はないと思いますが……」
こういうキラに、
「問題は人心面か」
クルーゼが苦笑を浮かべながら言葉を口にした。
「それを何とかするのが、大人の役目だろう?」
元々、そのために自分たちが選ばれたのだ……とフラガが言い返す。
「お前にそう言われるとは思わなかったよ。と言うわけで、その点については私たちで何とかしよう。キラ君は、彼らの中に入っていって様子を見ていてくれるか?」
「わかりました。カガリにもそう言っておきます」
三人の中で同意が出来たところで、フラガとクルーゼが立ち上がった。
「これからのことを全員で話し合わなければならないだろう。皆を呼んでくる」
「その間、連絡が戻ってきたらよろしくな」
キラは素直に頷き返す。そして、パイロットシートへと移動していった。
早急に行わなければならないのは、艦内の点検だ……という意見に、異論を挟む者は誰もいなかった。
異論が出たとすれば、それはチームわけだったりする。
イザーク達はナチュラルと行動するのを嫌がり、フレイは逆にコーディネーター達の側に寄りたくないと騒ぐ。
結局、キラ・アスラン・トール、サイ・カズイ・フレイ、カガリ・ミリアリア・ラクス、そして、イザーク・ディアッカ・ニコルの四組に分かれることで落ち着いた。
フラガとクルーゼはブリッジで操船を担当すると行って居残っている。おそらく、彼らだけでこれからのことを話し合いたいのだろうとキラは判断していた。
「君たちがコーディネーターに対する蔑視を見せないから助かるよ」
アスランが作業をしながらトールに向かって話しかけている。
「キラで慣れているからかな……キラは、コーディネーターでもナチュラルでも普通に接するから」
おかげで普段はあまり意識することはない……とトールが言葉を返す。
「それにさ。キラって、めちゃくちゃ努力家だしな」
「それは知っている。だから、今の状況だろう?」
「そうそう。あれだけ努力されりゃ、だれも何も言えないって」
本人の前で、一体どこまで会話を続ければ気が済むのか……とキラは思ってしまう。だが、人種の違いを超え『自分』と言う話題で盛り上がっている二人を邪魔していいものか……とも考えてしまうのだ。この二人から、親交が徐々に広まってくれれば最初の目的が果たされるのではないかと。
「……キラ、どうしたんだ?」
キラが小さくため息をついたのを、二人ともしっかりと聞きつけたらしい。こう問いかけてくる。
「これ、ハード的に壊れているみたいなんだよね……で、どうしようかと」
プログラムならすぐに直せるのだが、ハードの方は実は苦手なキラだ。いつになるかわからない……というのが本音である。
「……マジ?」
やめてくれぇ……とぼやいたのはトールだった。だが、かすかに眉を寄せているところからアスランも同じ気持ちなのだと言うことがキラにはわかる。
「開けてみないとわからないが……かなり厄介そうだな、これは」
「そうなんだよね。一応、設計図や予備の部品は有るはずなんだけど……」
あの衝撃でそれらを納めていたカーゴがどうなっているか……と考えると頭が痛いとキラが呟く。
「でもさ……それが壊れたままだと、飯、どうなるわけ?」
不安そうな表情を作ってトールが問いかけてきた。育ち盛りの人間にとって、何よりも『食事』は優先されるべきものなのだ。
「……保存食料を食べるか……自力で作るしかないだろうね」
ため息とともにキラが小さく口にする。
「マジ? 確か、保存食料ってめちゃくちゃまずいんだよな」
「否定しないな、それに関しては」
アスランが苦笑を浮かべつつトールに同意を示す。
「と言うことは、自力で作るしかないんだろうが……料理なんてできるか?」
トールの問いかけに、キラとアスランは思わず顔を見合わせてしまった。
「まぁ、必要最低限だけなら……」
「見かけと味付けについては保証しなくていいなら、な」
苦笑混じりに告げられた言葉は、それでもトールの予想よりはましなものだった。キラの性格から考えれば、そこそこ出来るだろうと言うことがわかっているから、とも言える。
「……ミリィはかなり得意なはずだけど……」
他の三人はどうかな、とトールが呟く。
「カガリはあてにできないよ。彼女の料理だったら、たぶん、僕の方がましだと思うから」
「ラクスは……料理したこと自体ないだろうしな」
「……フレイの料理を食べるのは命がけって……サイが言っていたっけ」
女性陣で期待できるのがミリアリアだけ、と言う事実に三人の口から同時にため息がこぼれ落ちる。
「直すしかないんだろうな」
トールが自動調理装置を睨み付けながら呟いた。
「……それに関してはこちら側のメンバーも期待できるだろうからね。一度戻ろう」
「そうだね。報告を聞いて、これからのことも考えないといけないだろうし……」
アスランの言葉にキラも同意を示す。
それでも、船体が無事なだけマシかもしれない……とキラは心の中で付け加えた。