Runners
6
それからどれだけの時間が経っただろうか。
頭が冷えたわけではないだろうが、結局後を追いかけたサイに連れられて戻ってきても、キラの指が止まることはなかった。
かといって、自分たちに出来ることは何もない。
それがわかっているから、彼らは黙ってキラを見つめている。
「結果はすぐに出るのか?」
ようやくキーボードを叩く手を止めたキラに、カガリが即座に問いかけの言葉を投げかけてきた。
「……いや……しばらくかかると思うよ……」
周囲の状況やあちらこちらにあるであろうブィからのデーターを元に計算しなければならない。その分析と計算にいささか時間がかかるだろうとキラは告げた。
「どのみち、急いでもなぁ……」
ショックが倍増するだけかもしれないか……と告げるフラガの頭を、クルーゼが遠慮なくはり倒す。
「時間が出来たのなら、とりあえずお互いに自己紹介でもしたまえ。間違いなく、予定していた以上の時間をともに過ごすことになるのだから」
唖然としているいっこうに向けて、クルーゼはにこやかな表情を作った。
「そうですね。その方がいいでしょう」
彼の言葉に、キラも頷く。
「もっとも、必要ないと思っている者もいるようだが」
そう言いながらクルーゼが視線を向けたのはフレイだった。その視線を感じて、彼女は隠れるようにサイの背後に隠れる。もっとも、その瞳には相変わらずコーディネーターに対する嫌悪を露わにしていた。その事実に、キラは小さくため息をつく。
「……そういじめないでやってくれ……少なくとも、戻ってきただけマシだと言うことで、さ」
そんな彼女をとりあえずというのがわかる口調でフラガがフォローをする。
「名前を知らなければ、文句のいいようもありませんが?」
意外なことに、こう口にしたのはイザークだった。その事実にアスラン達が驚いたという表情を作ったことをキラは見逃さなかった。
「……では、私から始めるか?」
その方が楽だろうとカガリが口を開く。
「そうだね」
カガリなら大丈夫か、と判断をしたキラが頷いたのを見て、彼女はふっと微笑む。
「私はカガリ・ユラ・アスハだ。オーブの代表と言うことになる」
もっとも、この状況では意味はないが、とかすかに笑みに苦いものを含ませる彼女に、その場にいた誰もが今までは違った意味で驚きの表情を作った。
「……アスハ、と言うと……」
「オーブ代表首長殿の」
「あぁ。娘だ、私は」
周囲から聞こえてきた声に、カガリは胸を張ると肯定の言葉を口にする。彼女がそれをどんな思いでしているのか知っているキラは、カガリの背をほめるように叩いた。
「……そちらの方もオーブの方でしょう?」
二人の態度から推測したのだろう。ラクスが穏やかな口調で問いかけてくる。
「キラ・ヤマトです」
「私の従兄弟だ。同時に、この船のシステムの担当者でもあるな、こいつは。だから、参加させられたという理由もある」
キラの言葉をフォローするようにカガリが口を開く。
「って……そいつ、俺らと同じ年代だろう?」
まさか、と言うニュアンスを含ませたのはディアッカだ。
「16だ」
それに応えたのはカガリではなくアスランだった。
「月のアカデミーで、プログラム学科の主席だったよな、キラは。で、第一世代だ」
だろう、と合意を求めるアスランに、キラは苦笑を浮かべつつ頷く。
「僕が言うこと、なくなっちゃったね」
それはそれで楽だけど、と付け加えれば、アスランとカガリの口元にも苦笑が滲む。
「キラはそう言うの苦手だろう?」
アスランに問いかけられて、
「……昔ほどじゃない」
キラは小さな声でこう呟くように口にした。
「普通に講義やなんかはこなしているよな」
そんなキラをフォローするかのようにトールが口を挟んでくる。
「君は?」
「トールです。トール・ケーニヒ。一応、キラの講座の学生……になるのかな?」
そう言いながら、トールはキラに視線を向けてきた。
「それは去年までのことだよ。今は……ただの友達でいいんじゃないのかな?」
もう、講義は持ってないし、とキラは告げる。
「そう言ってもらえればありがたいよな」
トールが笑いながら、ミリアリアの肩を叩く。その意味がわかったのだろう。
「ミリアリア・ハウです。去年、キラの講義を専攻していました」
「カズイ・バスカークです。同じようにキラの講義を取っていた一人です」
それで選ばれたんじゃないだろうけど、と付け加える彼にキラは困ったような表情を作った。
「サイ・アーガイルです。やっぱり、キラの教え子でした……でもキラが来るとは知らなかったな」
「キラが参加すると決まったのは昨日だ。予定していた人間が、昨日、ちょっとあったんでな」
逆に、お前達が参加しているからキラに白羽の矢が立ったんじゃないのか、とカガリが口にする。
「その可能性は否定できないか……フレイ?」
サイが苦笑を浮かべつつ、自分の背後に隠れるようにしているフレイに声をかけた。だが、彼女はがんとして口を開こうとしない。その事実に、サイはため息をつく。
「彼女はフレイ・アルスターです。一応、俺の婚約者……と言うことになっています」
そして、仕方がないというようにサイが彼女を紹介した。その瞬間、イザーク達の視線が険しくなる。
「アルスターね……なら、さっきの言動も納得かな」
ぼそりと呟かれた言葉に、キラがどう反応を返せばいいのかわからないという表情を作った。それにアスランはかすかに眉をひそめる。
「アスラン・ザラだ。キラとは幼なじみになるんだよな。幸か不幸か、カガリさんのことは噂でしか知らないけど」
「お前がアスランか。私もキラからしょっちゅうお前の話を聞かされてたぞ」
おかげで、他人だという気がしない、とカガリは明るい口調で言う。それがキラを思いやってのセリフだと言うことはアスランにも伝わってきた。
「ラクス・クラインですわ。よろしくお願いいたします、皆様」
「ニコル・アマルフィーです」
少しだけ柔らかくなった雰囲気を察してか、アスランに続いて二人が微笑みとともに自分の名を口にする。
「よろしくね」
キラが微笑みながら言葉を口にした。そして、その表情のまま残りの二人へと視線を向ける。
「……イザーク・ジュールだ」
「ディアッカ・エルスマンだよ、センセイ。ご苦労様だな」
オコサマの面倒を見なきゃないとは……と付け加えるディアッカを、ニコルとラクスが睨み付けた。
「……アスランの家のことは知っていたけど……他の人たちもそうなの?」
キラが小声でアスランに問いかければ、
「まぁね……そう言うこと」
苦笑が滲んだ声が返ってくる。
「そうなんだ」
その意味がわかっているキラは、あえてそれに関しては何も言おうとはしない。
「で、あの人がアスランの婚約者?」
くすりと笑って付け加えれば、アスランの瞳に困ったような色が浮かんだ。
「キラ」
「あたりってことだね」
さらに笑いを深めるキラと、憮然とした表情を作るアスランに、その場にいた者たちの視線が集まる。
「やっぱり、このメンバーの中心はあの二人になるのか」
「それを見通して彼を参加させてくれたのなら、オーブに感謝しなければならないだろうな」
大人達がこっそりと交わしている会話を耳にして、カガリが満足そうな微笑みを作ったことを、キラは見逃さなかった。