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 船がゆっくりとドックから出て行く光景を、トール達は展望室から眺めていた。
「すごいよな……」
 思わず彼がこう呟けば
「そうだよな。こんな風に出航していく様子を肉眼で見られるなんて思わなかったよ」
 とサイも頷いている。いや、彼だけではない。他の三人も同様だというような表情を作っていた。
「オーブってすごいのね。普通の船だと、出航の時はシートに座っていないといけないのよね」
 一体どういう慣性相殺システムなのかしら……とミリアリアが興味津々という表情で呟く。
「さすがミリィ……」
「似たものカップル」
 カズイとサイが同時に苦笑を浮かべているトールに視線を向けた。
「どうでもいいじゃない。どうせ、これだってコーディネーターが作ったんでしょう。オーブなんて、結局、コーディネーターにおんぶにだっこしている国じゃない」
 そんな彼らの会話を興味ないというように聞いていたフレイが、あきれたように口にする。
「フレイ!」
 そんな彼女のセリフをたしなめるように、サイが名前を口にした。
「だって、本当のことじゃない!」
 だが、フレイは自分の主張を変えようとはしない。
「……なら、何で今回参加したんだよ……」
 ブルーコスモスも顔負けというそれを耳にしながら、カズイが小さな声で呟く。
「だよなぁ……ここであっちとケンカをすれば、逆効果だろうし……」
「サイが来たから付いてきたんだとは思うんだけどね」
 困ったわね、とミリアリアもため息をつく。
 そこに打ち合わせを終えたらしいフラガが顔を出した。
「どうしたんだ……と聞かなくても事情が想像できるな……」
 フレイの声を耳にしながら、彼はあきれたような表情を作る。その蒼い瞳が、どうしたものかというように周囲をさまよいはじめた。
「いい加減にするんだな」
 言葉とともに、彼はフレイに歩み寄っていく。そして、その襟首を掴むと、猫の子をぶら下げるように持ち上げた。
「何……って、フラガ少佐?」
 勢いのまま文句を言おうとしたらしいフレイだが、相手がフラガだと認識した瞬間、それを引っ込める。
「お嬢ちゃん……君が心の中でどう考えていようと、それはある意味個人の自由だ。だが、今回の一件が何のために企画されたものか、理解しているはずだよな? どうしてもその主張を繰り広げたいなら、かまわん。今からでも帰るんだ。もし残るというのであれば、それは表に出すな。いいな!」
 出来ないのであれば、その場で放り出す……とフラガはいつもとはうってかわった口調で言った。さすがにこれに気圧されたのだろう。フレイはおとなしく首を縦に振った。
「そうだ。許可は貰ってきたから、次に船が泊まったとき、ブリッジに連れて行ってやるぞ」
 うってかわって何かをたくらんでいるような口調でフラガは他の4人に声をかける。
「本当ですか?」
 その瞬間、彼らの目が輝く。同時に、フレイのセリフによって生じていた気まずい雰囲気も一変した。
「あぁ……とりあえず追加のクルーが到着するまで……という限定付きだったがな。ついでに、かってにあれこれさわるな、と。約束できるな?」
 オコサマだなぁ、と思いながら、フラガは注意点を口にする。
「それに……あちらと鉢合わせする可能性もある。心構えだけはしておけ」
 ついで、と言うように付け加えれば、彼らは一瞬どうしようかという表情を作った。だが、ブリッジの見学という好奇心を刺激してくれる予定の方が彼らには重要だったらしい。
「わかりました」
「もちろんです」
 口々にこんなセリフを言いながら、彼らは頷く。それを見て、フラガは何かをたくらんでいるかのような表情で笑った。

「……ブリッジの見学ですか?」
 クルーゼの言葉にアスラン達は興味を惹かれた、という表情を作る。
「でも、本当にかまわないのですか?」
 ブリッジはクルー以外立ち入り禁止だったはず、とアスランは言外に問いかけた。
「まだ正規のクルーが着いていないそうなのだよ。現在この船を動かしているのは、オーブから参加している方でね。彼が、正規のクルーが来る前なら……と、見学を許可してくれたのだよ」
 もちろん、あちらにもだがね……とクルーゼは付け加える。
 その言葉に隠された意味を、5人は的確に受け止めていた。
「では、ご厚意に甘えることにするか」
「そうだな。わざわざ機会を与えてくれるんだし」
 連邦の連中はともかく、オーブの人間とは事を構えたくない。例えナチュラルだとは言え、彼らはコーディネーターに対する嫌悪感を見せることはない。そう言う相手にはそれなりの礼儀を持って対応すべきだ、とイザークは付け加える。それにディアッカも同意らしい。
「あちらに対しては、その時の態度次第ですけどね」
 そう付け加えるイザークに、アスラン達は仕方がないという表情を作った。連邦のメンバーはともかく、オーブの人に関してはそれなりに接してくれるつもりらしいというだけでもマシだ……と判断したからだ。
「そう言えば、クルーゼ様」
「何ですか?」
 にっこりと微笑みながら問いかけてくるラクスには、さすがのクルーゼもいつもの態度を取れないらしい。
「どのような方々ですの? オーブから参加された方とおっしゃるのは」
 そんな彼の態度に微笑むと、ラクスは誰もがほっとするようなおっとりとした口調で質問の言葉を口にする。
「それは、実際に見て判断して貰った方がいいでしょう。ただ、驚くであろうことだけは請け合いますが」
 そんなラクスに、クルーゼは意味ありげな微笑みを向ける。
「……なんか、楽しんでいません?」
「だな……」
 彼がこう言うときは絶対答えを教えてくれないと言うことと同意語だ、と言うことをアスラン達はよく知っていた。
「そんなに驚くような相手なのか?」
 どんな奴だろうな、とディアッカも興味を示し始める。
「オーブ所属の人間だろう?」
 知り合いでもいたか……と呟くイザークの言葉に、アスランは親友のことを思い出していた。
 確か、彼の両親はオーブのIDを持っていたはず。そして、本人も幼年学校を卒業してからはオーブへと向かった。
「……まさかな……」
 だが、先日連絡を取ったときにはそんなこと、一言も言っていなかった……と口の中で呟く。
「思い当たる方でもいらっしゃるのですか?」
 アスランの呟きが耳に届いたらしい。ニコルが問いかけてくる。
「オーブに親友がいるんだ……第一世代の奴で、ご両親とともに月からオーブ本国へ移住したんだが……」
 先日貰ったメールには今回のことは一言も触れられていなかった、とアスランは正直に口にした。
「そうなんですか」
 その方だったらよかったですのにね、と、ニコルは微笑む。
「そうですわよ、アスラン。紹介してくださるとおっしゃっていたのに、いつまで経っても会わせてくださらないんですもの」
 二人の会話にラクスも割り込んでくる。
「なかなか予定が合わなくて……」
 機会があったら必ず、とお茶を濁さざるを得ないアスランの耳に、
「……完全に尻に敷かれているな……」
「ラクス嬢が相手じゃ無理もないんじゃねぇの?」
 イザークとディアッカのこんな会話が届いた。





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最遊釈厄伝