空の彼方の虹

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 アマノトリフネがプラントを出航したと言うだけでも、何故かほっとしてしまう。
 もっとも、気を抜くことができないというのも事実だ。
「キラ。お前は部屋で休んでおれ」
 ブリッジの隅でセンサーをのぞき込んでいた彼に、ミナがそう声をかける。
「でも……一人でいると寂しいです」
 せっかくみんながいるのに、とキラが彼女を見上げた。
「キラの勝ちだの」
 その光景に、ギナがぼそっと呟く。
「でしょうね」
 カナードは苦笑を浮かべつつうなずいて見せた。
「キラの《お願い》に勝てたのはカリダさんだけです」
 本当に彼女は強い女性だった。戦闘力という意味ではなく、心が、だ。実姉ヴィアのこどもとは言え、普通ではない生まれ方をしたキラと、彼女が引き取ったとはいえ縁もゆかりもない自分達に惜しみない愛情を注いでくれた。
 自分がこうして守る側に立っているのはキラの存在があるからだ。だが、それいがいはどうでもいいと考えていたことも否定しない。いや、実際、今でもそうだと言える。
 そんな自分が曲がりなりにも常識をたたき込んでくれたのはカリダだろう。
 そう考えながら、さらにカナードは口を開く。
「周囲はあいつを甘やかしていましたからね。自分ぐらいはと考えておられたのでしょう」
「そうであろうな」
 ギナも苦笑を浮かべながらうなずいた。
「それでも我らに『甘やかすな』とは言われなかったな、あの方は」
 おかげで、自分達はキラを思う存分甘やかして、誰かに甘えられると言う経験ができたのだが。彼はそう付け加える。
「……仕方がない。おとなしくしておるのだぞ?」
 どうやら陥落したらしいミナの声が耳に届く。
「やはりの」
 ギナがそう言って小さな笑いを漏らす。
「今回は危険がないおねだりでしたからね」
 ここにいたいと言うだけであれば、とカナードもうなずく。
「確かに。ここにおればフォローは簡単だからな」
 自分達の、とギナは笑った。
「キラ。こちらに来るがよい」
 そのまま、彼はキラを手招く。
「はい、ギナ様」
 笑みとともにキラは床を蹴った。そして低重力の中、まっすぐにこちらに流れてくる。その体を、カナードは手を伸ばして抱き留めた。
「自分でも止まれたのに」
 キラはそう言って頬を膨らませる。
「いいじゃないか。人目がないんだから、思い切り甘やかしたいんだろう、お前を」
 あきれているというのを隠さずにカガリが言葉を綴った。
「あきらめておとなしくかまわれてろ」
 できれば自分に、と続けたのが彼女の本音なのではないか。
「本音がダダ漏れだの」
 それに気づいたのだろうギナが笑う。
「いいじゃないですか」
 別に、とカガリは言い返す。
「そういうことにしておこう」
 彼はあっさりとカガリの文句を受け流した。
「ギルさんのお家も好きだけど、やっぱり、アメノミハシラの方がいいよね」
 そんな空気を打ち壊すようにキラがそう言う。
「であろう?」
 我が意を得たりというようにミナがうなずく。
「だから、早々に帰ろうかの。我らの城へ」
 そして、彼女は高らかにこう宣言をした。


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最遊釈厄伝