空の彼方の虹

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 目の前に広がる地球に比べれば小さいとしか言いようがない宇宙ステーション。それがアメノミハシラだ。
 宇宙空間とオーブ本土をつなぐ軌道エレベーターの終着点として、それは作られた。だが、そこから伸びるはずの巨大な糸は、まだ地球上に下ろされてはいない。戦争によって中断されたままなのだ。
 だが、それがサハクの居城。キラ達の家である。
「今回はずいぶんと長く留守にしたよな」
 ため息混じりにカナードが言う。
「そうだね」
 長かったね、とキラもうなずく。
「ラウさんやレイ、それにギルさん達に会えたのは嬉しかったけど、やっぱり、ここが一番いいや」
 ここならば、自分の事情を知っているものばかりだ。あれこれとごまかす必要がない。それだけでも気持ちが楽だと言える。
「そう言ってもらえると嬉しいの」
 ミナが微笑みながらキラの肩に手を置く。
「私はもちろん、ギナもがんばっておるという証拠だからの」
 あれにしては珍しいことだ、と彼女は続けた。
「ギナ様はいつでも僕のことを気にかけてくださいますけど?」
 そんなに珍しいことなのだろうか。キラはそう思わずにいられない。
「お前がそう言うのであれば、あれの努力も報われるな」
 苦笑とともにミナがそう言葉を綴る。
「そういえばギナ様は? カガリもいないようですが」
 ちょうどいいとばかりにカナードが問いかけの言葉を口にした。
「あぁ。本土から出迎えが来ておるようだからの。先に行かせた」
 カガリには特に必要であろう。そう言って彼女は笑った。
「……なるほど。お小言か」
 カナードは苦笑とともにうなずく。
「キラには聞かせたくないだろうな、それは」
 確かに、と彼は続けた。
「あれにもプライドはあろうよ」
 ミナもくつくつと笑いを漏らす。
「さて、我らは一足先に休息をするか」
 そのまま、ミナはキラの肩を押す。
「そうだな。そうしよう」
 カナードもそう言うのであれば、そうした方がいいのだろう。それはわかっている。
「お客様に挨拶しなくていいのかな」
 本土から来たと言うことは、アスハ関係者だろう。今回のことでかなり迷惑をかけた自覚がキラにはある。
「カガリへのお小言が終わってからにするがよい」
 ミナがそう言って笑う。
「それよりも、ほれ。お前に甘えて欲しい人間がもう一人おるぞ」
 言葉とともに彼女は前方を指さす。それにつられるようにキラとカナードは視線を移した。
 次の瞬間、二人の顔に笑みが浮かぶ。
「ムウさん!」
 ラウと違って、ここ数年、ほとんど会うことがなかった相手に、キラの声に喜色が浮かぶ。そのまま、まっすぐに彼に駆け寄っていく。
「本当にオーブに帰ってきていたんですね」
 そう言って彼に飛びつく。そんなキラの体をムウはあっさりと抱き留めた。
「お前はちっちゃいままだなぁ」
 しかしこの一言はあまり嬉しくない。
「僕だって、すぐに大きくなります!」
「わかってるって。それより、がんばったな。お前もカナードも」
 ギナはもっと苦労していいのだろうが。そう付け加える彼にキラは笑いかける。
「みんながいてくれたからです」
 そう言う彼の頭をムウの大きな手がなでてくれた。
 そんな彼らの様子をカナードとミナが微笑ましそうに見つめている。
「ずるいぞ、ムウ!」
 そこにカガリの声が割り込んできた。どうやら、お小言の時間が終わったと同時にこちらに来たらしい。彼女の後ろにはギナの姿もある。
「いいだろう? それこそ、今まであれこれと我慢させられてきたんだからな、俺は」
 それにムウが年甲斐もなく反論をした。その言動に当事者以外の者達は失笑を浮かべる。
 しかし、こんな日々が戻ってきたことが嬉しい。
 キラは心の底からそう考えていた。


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最遊釈厄伝