空の彼方の虹
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応接間に行くのだろうか。そう思っていたにもかかわらず、彼らが向かったのは、ギルバートの家の研究室だった。
「……ミナ様?」
何故ここなのか。カナードは言外にそう問いかける。
「ここに、ヒビキ夫妻の研究データーの一部をコピーしてあるからだ」
レイのこともあってな、とミナは言い返す。
「もっとも、その大部分はロックされているがな」
それを外すためには、キラ達三人が持っているパスワードが必要だ。彼女はそう続けた。
「パスワード?」
キラがそう言って首をかしげている。
「お前たちは聞いているはずだぞ。カリダ殿からな」
即座にミナがこう言ってきた。
「母さんが?」
「そうだ」
キラの言葉にミナがうなずく。
「どれだろう」
一杯言葉をもらったけれど、とキラは考え込むような表情を作った。
「きっと、三人一緒の時だろうな」
カナードはそう声をかける。
「……と言っても……」
たくさんあるし、とキラは言い返してきた。
「あれかな?」
だが、カガリは何かを思いついたらしい。
「何?」
即座にキラが彼女へと問いかける。
「いつも歌っていてくれていた歌があっただろう? 一番がお前で、二番が私、三番がカナードさんといいながら」
そう言われてみれば、確かにそんな記憶があった。
「あれだね。確かにあった」
キラも思いだしたのだろう。すぐにそう言って笑ってみせる。
「でも、あれがそうなの?」
言葉とともにカナードへと視線を移動してきた。
「入れてみればわかるんじゃないか」
自分も自信はない。カナードは正直にそう告げる。
「そうだな。それが一番であろう」
ギナもそう言ってうなずいた。どうやら、これに関しては彼も詳しいことは知らないようだ。
「それでかまわぬな、クライン議長」
ミナがそう言ってシーゲル達を見つめる。
「かまいません」
急なお願いだったのだ。カナード達が情報を整理しきれなくても仕方がない。彼はそう言った。
「すまんな。もっとわかりやすい形で教えていたと思っておったのだが」
ミナがすまなそうな表情を作る。
「いや、このくらいの方がうかつに知られることがなくていいのではないかな?」
こう言ったのはタッドだ。
「もっとも、最も重要なデーターのロックを外すには、この子達の生体データーがいる。だから、オーブでは開示することができないのだよ」
ここにあるのは、あくまでも実験途中でのものでしかない。そう説明しているミナの声を聞きながら、ギナがキラを促すように背中を押す。
「……失敗しても誰も怒らぬから安心せよ」
それに意を決したようにキラがコンソールへと歩み寄っていく。そして、真っ先に何かを入力していく。
「どうやら、あたりみたい」
最初のフレーズだった、と言いながら彼は振り向いた。
「なら、次は私だな」
カガリがキラの隣に移動すると手を伸ばす。キラが移動しないのは、間違いなく、彼女が失敗をする可能性を心配してのことだろう。実際、何度か彼の手がカガリのそれを移動させているのが見えた。
「次は俺か」
二人が振り向いたのを確認して、カナードがうなずく。
そして、思いついたフレーズを打ち込む。
次の瞬間、モニターに様々な色が現れては消えていく。
そして、最後に残ったのは何かの設計図とそれに付属した数字の羅列だった。
「それが人工子宮の設計図と人工羊水の成分表だ」
ミナがそう宣言をする。
これが自分とキラをつなぐことになったものなのか。そう思いながら、カナードは静かにそれを見つめていた。