空の彼方の虹

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 いくらミナでも、独断で全てを決めるわけにはいかなかったらしい。それでも、今回のことも含めて大まかな道筋だけは作り上げたようだ。
 そして、明日にはプラントを離れる。そう決まったある晩のことだった。
「キラ。それにカナードも、少しつきあえ」
 ミナがこう言ってくる。
「それはかまいませんが……」
 いったい何につきあえというのだろうか。首をかしげなながら、キラは彼女の元へと駆け寄った。その後を、渋々と言った様子でカナードがついてくる。
「安心しろ。お前たちを危険にさらすつもりはない」
 ただ、少しやって欲しいことがあるだけだ。ミナはそう言って微笑む。
「ギナとデュランダル達も同席するから安心するがいい」
 さらに彼女はこう付け加えた。
「本音を言えば、本土からムウも呼び寄せたいところだがな」
 さすがにそれには時間が足りない。だから、今回は妥協しよう。ミナはさらにそう言った。
「ムウさんまで?」
 何故、そこまでみんなを集めなければいけないのだろうか。
「お前がちが預かっていたあのデーターをプラントにも渡すからな」
 そのときには全員がそろっていた方がいいだろう。しかし、今は一部だけだから、かまわないのではないか。
「一応、ムウには断りを入れたしな」
 あいつもそれどころではないらしい。そう付け加えられた瞬間、何故かキラの背中を悪寒が駆け上がっていった。
「大丈夫だ、キラ。あの人がちょっとやそっとのことでは死なない」
 だから、オーブに戻れれば会えるだろう。そう言いながら、カナードは苦笑を浮かべてみせる。
「何と言っても、自称《奇跡を呼ぶ男》だからな」
「……だといいけど」
 キラは小さなため息をつく。
「何か、こき使われていそうで……」
「あぁ……あり得るな」
 こんな会話を交わせるのも、間違いなく、全てが終わったからだ。そうでなければ、カナードが気を緩めているはずがない。
「そのあたりのことはウズミとキサカがうまくやっておるだろうよ」
 ミナが静かに言葉を口にする。
「それよりもよいな?」
 行くぞ、と彼女は口にすると、そのまま体の向きを変えた。その瞬間、ふわりとマントの裾が翻る。それが元に戻る前に、キラも歩き出した。

 廊下に出れば、そこにはラウとレイが待っていた。
「ギナ様とギルさんとカガリは?」
 三人も一緒にいるのではなかったのか。キラはそう問いかける。
「お客様のお出迎えに行っているよ」
 客まで来るのか。いったい、本当に何があるのだろうか。そう思わずにいられない。
「一人はキラ君もよく知っている人だよ」
 ラウはそう言って微笑む。
「僕も?」
 キラはそう言って首をかしげた。
「ラクス嬢とその父君。それと、最高評議会議員の方々だね」
 全員ではないが、とラウは続けた。
「ディアッカとニコルの父君達だから、心配はいらない」
 ひょっとしたら彼らも来ているかも指令。そのときには外で待っていることになる。だが、用事が終わったらキラが望むなら彼らとあってもかまわないだろう。ラウはそう続ける。
「そういえば、ニコルさんのピアノを聞かせてもらう約束だった」
 今思い出した、とキラは呟く。
「だそうですよ、ラウ」
「そういうことならば、後で声をかけておこう」
 そのくらいの時間はあるのか。なくても、自分達がオーブに言ったときに弾かせればいいか。ラウはそう言う。
「機会はたくさんあるからね」
 その言葉に、キラも小さくうなずく。
「と言うところで行くぞ。デュランダルがいるとは言え、ギナが何をしているのか不安だからな。それにカガリも」
 それならば、最初からミナが出迎えていればよかったのではないか。そんなことをふと考える。しかし、彼女には彼女の理由があるのだろう、とキラはすぐに結論を出す。
「まぁ、カガリにはいい経験でしょうね」
 カナードがそう言って笑う。
「今回のことでプラスになったと言えば、それだろうな」
 そう言うと、ミナは歩き出す。キラ達もその後を追いかけるように足を踏み出した。


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最遊釈厄伝