空の彼方の虹
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「無事で何よりだ」
真っ先にミナがそう声をかけてくる。だけではない。彼女はしっかりとキラの体を抱きしめていた。
「……ミナ様」
まぁ、いいですけどね……とカガリがため息をついている。
「お前は一人でも何とかできると思っていたからな」
そんな彼女に向かって、ミナはこう言い返した。
「と言うよりも、何とかしてもらわんと困る。いつまでも私達がフォローできるわけではないからな」
彼女の言葉に、カガリは表情を引き締めた。
「……ミナ様、苦しいです」
緊張しかけた空気を、キラのこの一言があっさりと霧散させる。
「あぁ、すまなかったな」
この言葉とともに彼女は腕の力を緩めた。しかし、まだ、キラの体を腕の中に閉じ込めたままだ。
いい加減解放してくれればいいものを。
思わず心の中でそう呟いたときだ。
「少しぐらいかしてくれてもいいであろう? 私はお前とこの子の後見人だぞ、カナード」
心配していたのは同じだ。そう言われては引き下がらないわけにはいかない。
「ミナ様、ごめんなさい」
キラが反射的にそう口にする。
「お前が謝ることではないだろう?」
苦笑とともにミナが彼に声をかけた。
「でも、僕が倒れちゃったせいだと思うので……」
緊張が途切れたせいだろうか、とキラは続ける。
「なるほど。相変わらず過保護だな」
苦笑ともにミナはそう言った。
「お言葉ですが、俺よりもギナ様の方が大騒ぎをしてくださいましたが?」
即座にカナードはそう言葉を返す。
「あれも困ったものだな。意外なところで肝が小さい」
キラもそこまで弱くはないと言うのに、とミナは笑う。
「まぁ、よい。キラの世話はお前の役目だからの。心配するのもお前の役目だ」
多少過保護でも仕方があるまい。そう言われて、カナードは少しだけ憮然とした表情を作る。
「お前とキラはギナとともにおれ。カガリは私とともに交渉の場に来てもらうぞ」
今後、カガリにはそれが必要となるだろう。だから、見ておけ。ミナの言葉に、カガリは小さくうなずいた。彼女も、自分にはそれが必要だとわかっているからだろう。
「キラさん、カナードさん。お茶を淹れますよ」
レイがそう言ってくる。
「あぁ、ついでに何か甘いものでも食べろ」
作ってやれればいいのだが。そう付け加えるカナードにキラは小さな笑みを向けてくる。
「うちに帰ったら、作って?」
その表情のまま、彼はこう口にした。
「もちろんだ。任せておけ」
カナードの言葉にキラはさらに嬉しそうな表情を作る。
「楽しみにしておこう」
しかし、何故キラよりも先にミナがこう言うのか。
「ミナ様!」
「いいではないか。お前が作るスイーツは、私も好きだからな」
そのくらい、と彼女は笑う。
「そうであろう、カガリ」
カガリに同意を求められては、反論するのも難しくなる。
「あきらめろ。姉上にかなうはずがなかろう」
「そうだな。ある意味ミナ様は最強だからな」
いつの間に追いついてきていたのか。ギナとラウがうなずきながら口を挟んできた。
「わかっていますよ」
カナードは半ば投げやりになりながら言い返す。しかし、こんな会話を交わせるのも厄介事が片付いたからではないか。
「このままオーブに戻れればいいのですけどね」
そうすれば、全てが終わる。キラも安心できるはずだ。
「任せておくがよい」
それにミナがこう言って微笑んで見せた。