空の彼方の虹
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事前にトラップを仕掛けておいてよかった。カナードはそう思う。
同時に、ギナの予感は侮れないと思う。
「あの人の場合、悪い予感は百パーセント当たるからな」
しかし、人数が多い。
トラップのおかげで何とかなっているが、とカナードは目をすがめる。何の対策も取っていなければ、どうなっていただろうか。
ただ、これだけは確実に言える。
「こちらが本命だったな」
あれだけ大がかりなことをして、なおかつ、部下を捨ててまで自分達を確保しに来たのか。カナードはあきれる。
だからと言って、連中の思惑通りになるわけにはいかない。
「絶対、キラは渡さない」
どんなことをしても守ってみせる、と続ける。
「あいつを守ることが、俺の存在意義だからな」
キラがいるからこそ、自分は人間らしくいられるのだ。だから、と続けた。
「あいつだけは、いつでも笑っていて欲しいんだよ」
そう考えているのは自分だけではないはず。だからこそ、ラウもムウも、進んで戦場に身を置いていたはずだ。
カガリも、彼を守れるようにと嫌いだった勉強をがんばっている。
だから、とカナードは笑った。
「俺たちの幸せのために、ここは引き下がるわけにはいかないんだ」
おそらく、こちらに来ているのが主力だろう。それならば、三人のうちの誰かが気づいてくれるはずだ。
自分は彼らが来るまでここを死守すればいい。
「さて……後どれだけ持つかな」
自分が、と呟く。
「その前に来てくれることを祈るか」
大丈夫だとは思うが、とカナードは笑った。
あれが陽動だったと気づけなかったのは失態だった。
「無事でおればよいが」
ギナはそう呟くと足を速める。その後には、ミゲルをはじめとするザフト兵もついてきていた。その中にアスランをはじめとする最高評議会議員の息子達がいないのは、ラウ達の配慮だろう。
「大丈夫でしょう。あいつは強かったですから」
苦笑とともにミゲルが言い返して来る。
「不本意ながら、一度も勝てませんでしたしね」
だから、と彼は続けた。
「あれには我らが本気であれこれとたたき込んだからの」
本人もそれを望んでいた。だから、手加減などしなかった。そう続ける。
「……なるほど。俺たちはまだまだと言うことですか」
苦笑とともにミゲルは言い返してきた。
「お前たちは規律に縛られておるからな。仕方があるまい」
ラウですら苦労をしているのだ。その部下達であればなおさらだろう。
「それよりも、よいな?」
もうじき目的地だ、とギナは言外に告げる。
「もちろんです」
即座にミゲルは言葉を返してきた。その反応の早さが心地よい。
だからこそ、ラウは彼を重用しているのだろう。
「あてにしている」
どちらにしろ、自分達だけで全てを解決するわけにはいかないのだ。面倒だが仕方がない。
「あぁ、気をつけるように。そのあたりにトラップが仕掛けてある」
この言葉に、兵士の一人がびくっと肩をふるわせる。
「使われておらぬと言うことは、このルートを使わなかったということだの、連中は」
さて、どこからどう移動してきたのか。それも調べてみる必要があるのではないか。そんなことも考える。
「だが、全てが終わって体の、それは」
今は、彼らの安全を確保することが最優先だ。
そのためにも、早々に目的地に着かなければいけない。
「間に合えばよいが」
そう考えると同時に、ギナは足を速めた。