空の彼方の虹
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ドアが吹き飛ぶ。
「何だ?」
そう叫んだ男の体が、大きく後ろに吹き飛んだ。
「動くな!」
どこか聞き覚えがある声が室内に響く。
「アスランか」
パトリックがそう呟いた声は銃声にかき消される。
「ともかく、何かの影に隠れられよ!」
ミナはそう言う。同時に胸元に手を入れた。
次の瞬間、炭素繊維で作られた細い鞭が拉致犯達の足を打つ。
この攻撃は予想していなかったのか。相手の動きに一瞬、隙ができる。
その機会を逃すまいとするかのように、救援に来た者達が犯人を攻撃した。
しかし、だ。
「……ユウキがいないな」
ミナはそう呟く。
「あれを捕まえねば意味はなかろう」
とは言っても、ここではこれ以上のことはできないだろう。
「ラウを捕まえるか」
それが一番手っ取り早いか。ミナはそう付け加えた。
「ロンド・ミナ様?」
それに答えるかのように声をかけてくるものがいる。その声にミナは視線を移動させた。
「……お前は」
すぐには名前が出てこない。と言うことは、実際に顔を合わせたのは初めてと言うことか。
「ニコル・アマルフィです」
そう考えていれば、彼はすぐに名乗った。
「キラが世話になった子か」
何度も名前を聞いていた、と告げるとミナは微笑む。
「いえ。当然のことをしたまでです」
彼はすぐにこう言い返してくる。
「それで? 私に何の用だ?」
「隊長がお話ししたいと」
そう言いながら、彼はミナにヘッドセットを差し出して来る。
「ありがとう」
言葉とともにミナはそれを受け取った。そのまま耳にそれをはめる。
「ラウか?」
『はい。ご無事で何よりです』
彼はほっとしたような口調でそう告げた。もっとも、彼が心配していたのはそれではないだろう。きっと、自分が相手を殺していないかどうか。そちらの方が心配だったのではないだろうか。
「それよりも、肝心要の首謀者がいない。ギナにあちらに戻るように言ってくれ」
そこにいるんだろう? と問いかけではなく確認の言葉を投げつける。
『ミナ様?』
「おそらく、こちらの動きは把握されているはずだ。主力が全て、こちらに来ていることもわかっているだろう」
連中の狙いはキラだ。
だから、と彼女は続ける。
『大丈夫だとは思いますが……』
ラウはそう言い返してくる。
「確実とは言えまい。お前は動けないだろうが、あれならば動けるだろう?」
自分も同じようにこの場を離れられない。だが、ギナならば何とかなるのではないか。
「実際に戦えるのがカナードだけではな。いささか心許ない」
カガリとレイもそれなりに力になるだろうが、だが、あの二人は実際に人を殺したことはあるまい。だから、どうしてもためらいが出るはずだ。
『わかりました』
すぐに伝える、とラウは言い返して来る。
「杞憂であればよいが」
その可能性は低いだろう。ミナはそう呟くとヘッドセットを外す。
「ありがとう」
「命令に従ったまでです」
そう言って微笑むニコルに、アスランもこうであれば少しは状況が変わっていたのではないか。そう思わずにいられない。
「いい気なものだな! 貴様はあれをこの世から消し去ろうとくせに!」
どうやら、こちらもまだまだ終わらないらしい。ミナは心の中でそう呟く。同時に、彼らがどのような反応を見せているのか。確認しようと視線を移動させた。