空の彼方の虹
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ドアの向こうから足音が聞こえたような気がして、キラは視線を向けた。
「兄さん?」
同じように視線をドアへと向けたカナードにキラは呼びかける。
「誰かはわからないが、ここに来ようとしているようだな」
だが、味方ではないだろう。彼はそう続けた。
「……どうして?」
「ラウさんなら、必ず連絡を入れてからこちらに来る。しかし、連絡はなかったからな」
むしろ、知らせたくないのではないか。彼はそう続ける。
「わたくし達がここにいることを知ることができる立場の人間と言うことにもなりますわね」
さらにラクスが口を挟んできた。
「そうなると、かなり絞られますわ」
彼女はそう付け加える。
「ザフトのマザーを覗ける人間がいるなら、条件はさらに緩くなるんじゃないか?」
それにカガリが反論した。
「複数名いるんだろう?」
確認できる人間は、と彼女はギルバートに視線を向けた。
「もちろんだが……彼らは皆、地球に残っている親族まで調べられているはずだよ」
そこで関係者にブルーコスモスがいないかどうかも徹底的に調べられるはずだ。ぐるバーとはそう言う。
「でも、いくらでもごまかせるよね?」
キラがいやそうに顔をしかめながら口を開く。それは、彼もその事実をいやと言うほど目の当たりにしていたからだろう。
「ブルーコスモスなら、そのくらい簡単にやるだろうな」
カナードもそう言ってうなずく。
「なるほどね」
ギルバートもその事実を認めないわけにはいかないようだ。
「それに、マザーを調べられるなら、他の人たちのスケジュールも把握できるよね?」
ひょっとしたら、そちらの方がメインだったのではないか。キラの言葉は妙に説得力がある。
「調べてみる可能性はあるだろうね」
その前に、とギルバートは目配せをしてきた。
「キラ。ラクス嬢の隣にいろ。レイはソファーをひっくり返して盾を作れ」
カナードは次々と指示を出す。
「私は?」
カガリが問いかけてくる。
「お前はギルバートさんと一緒に援護をしてくれ」
指示を出すまで攻撃はするな。そう念を押しておく。
「……先手必勝と言うじゃないですか」
即座に彼女が言い返してきた。
「下手な相手を傷つけて後々困ったことになったらどうする」
第一、オーブは専守防衛だろうが。ため息とともにカナードはそう付け加える。
本当に、誰の影響だろうか。
「いざとなれば隠蔽すればいいだけです」
ラクスがそう言って微笑む。
「ラクス様。さすがにそれはまずいかと」
ギルバートが苦笑とともにそう告げる。
「ともかく、開けるぞ」
自分が出てからドアを閉めればいい。その方がいろいろと楽だ。カナードはそう考えながら言う。
「キラは目を閉じてろ」
ついでに耳も塞いでおいてくれればいいのだが。そう心の中で呟く。
「ラクス! お前、何しているんだ!!」
「何と言われましても……キラ君を抱きしめていますわ。これなら、目も耳も塞いでおけましてよ」
ラクスはそう言い返している。
「……ともかく、お前たちはいいと言うまで動くなよ」
カナードはそう言うとドアを開いた。