空の彼方の虹

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 いきなり、何かが吹き飛ぶ音がした。
「何だ?」
 いったい、何が起きたのか。それを確認しようと,兵士の一人が飛び出していく。
「救援か?」
 パトリックが小さな声でそう呟くのがミナにも聞こえた。
「わからない。空調がおかしいようだから。システム的な何かかもしれない」
 負荷がかかって、換気口が吹き飛んだだけではないか。ホワイトがそう言い返している。
 そのどちらでもないだろう。ミナは心の中だけで呟く。自分がトイレの換気口から放り込んだマイクロユニットが目的を果たしたのではないか。
 これにギナ達が気づくかどうかが問題だな。そう付け加える。
 気づかなかったら、後でお仕置きだな。そのときには何をさせてやろうか。
 ギナに一番聞きそうなのは、キラとの接触を禁止することかもしれない。ここしばらく独り占め状態だったのだ。多少引き離したとしても問題はないだろう。
 こんなことを考えていたときだ。
「通路の換気口の柵が吹き飛んでいた。おそらく、何かの不具合だろう」
 様子を見に行っていた兵士がこう言いながら帰ってくる。
「そこに誰かが潜んでいる可能性は?」
「子供ならば可能だろうが、いくら何でもそんなことをさせる人間はいないだろう」
 五つか六つの子供でなければ不可能だ。彼はそう付け加える。
「外部からの異物の可能性は……ないな」
「そんなことをすればセキュリティが反応をする」
 セキュリティの一部はあちらに奪われているが、このかいのそれは自分達の支配下だ。彼はそう言い返す。その言葉の裏には自信が満ちあふれていた。
 だが、まだまだ甘いな。ミナはそう心の中で呟く。これがアメノミハシラであれば、排気口内の異物にもチェックが入る。
 それをどうかいくぐるかにキラとカナードが挑戦していて、大騒ぎになったのは、一月ほど前のことだったか。余計な事まで思い出してしまった。
 もっとも、あの子がいたずらをしようと考えられるようになったことは嬉しいのだが。
「あれらの悪い影響を受けているの」
 それだけは何とかしなければいけないような気がする。
「そのためにも、何とかここから解放されなければな」
 さて、いつになったらギナ達は動くのか。そのときまで体力を温存しておかなければいけないだろう。
 そう考えるとミナは目を閉じると体から力を抜いた。

 珍しくもギナが複雑な表情を浮かべている。
「ギナ様?」
 どうかしたのか、とラウは問いかけた。
「何でもない」
 たぶん、と彼は続ける。
「姉上がじれているような気がしただけだ」
 早めに助け出しにいかないと何を言われるか。彼はそう呟く。
「それは……怖いですね」
 何をされるのか、とラウは苦笑を浮かべる。もちろん、その時は自分も巻き込まれるのは目に見えていた。
「ともかく、今しばらくお待ちください。侵入した者達がルートを確保した時点でこちらも突入します」
 内部の様子がはっきりとわからない以上、それが最善の策だ。
「他の方々が、ミナ様並に戦えれば、話は早いのですがね」
 苦笑とともにそう付け加える。
「それは高望みだろう」
 後方にいる者達ほど、戦闘から遠ざかるものだ。自分で意識をして訓練を積まない限り、戦う力などないに等しい。
「まして、ここの政治家は忙しいようだしな」
 それは皮肉なのだろうか。それとも、と悩む。
「オーブが特別なのだと思いますよ」
 正確に言えば、アスハとサハクが,だろう。わざわざ後継者を戦場に放り出すようなことをするのは彼らだけだ。
「戦いのなんたるかを知らずして、兵士に『戦地に行け』と言えぬからな」
 手っ取り早く身につけるには、実際に戦場に赴くのが一番だ。
「そばに信頼できるものをつけてやれば、一人ぐらいどうとでもなる」
 そう言って彼は笑う。
「本当にスパルタだな」
 苦笑とともにバルトフェルドが口を挟んでくる。
「と言うことで、準備が整ったらしいぞ」
 お待たせしましたな、と彼はギナに向かって言う。
「何。今回は傍観者に徹したいところだから、かまわぬ」
 人質が無事に助け出されるなら、と彼は続けた。
「では、そういうことで」
 始めるか、とバルトフェルドは笑う。そして、軽く手を上げた。


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最遊釈厄伝