空の彼方の虹
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キラの体力は完全にゼロになってしまったらしい。カガリの膝を枕に眠っている。
「足がしびれないように気をつけろよ?」
言っても無駄だろうが。そう思いながらカナードは声をかけた。
「下手に動けばキラが起きるじゃないですか」
即座にこう言い返される。
「なら、わたくしが変わりましょうか?」
小さな笑いとともにラクスが問いかけてきた。
「いい! こういうときじゃないと、キラを構えないからな」
予想通りのセリフをカガリは口にする。
「それよりも、あっちはどうなっているんだろうな」
話題をそらすかのように彼女は口を開いた。
「大丈夫だと思いますわ」
ラウとバルトフェルド。どちらも,ザフトでは最高レベルの指揮官だ。ラクスはそう言い返す。
「後は、ギナ様が暴走されないことだけだね」
苦笑とともにギルバートが口を挟んでくる。
「俺としてはミナ様の方が怖いが」
ため息とともにカナードが言い返す。
「レイ。俺の分は砂糖はいらないぞ」
そのまま視線を移動すると、さらに言葉を口にした。
「はい」
キラを気遣ってか。彼は小さな声で言葉を返す。そのまま、お盆にカップをのせるとこちらに戻ってくる。
「とりあえず、今は待っていることしかできないからね」
不本意だが、とギルバートは言う。
「仕方がありませんわ。わたくし達が現場に行けば、余計な人手を割くことになりますもの」
それでは、救出できるものもできなくなるのではないか。ラクスはそう続けた。
「……私は、ミナ様が暴走していないかの方が怖いがな」
何度も言うが、とカガリはため息をつく。
「否定はできない」
きっと、今も打開策と言って何かをしているに決まっている。カナードはそう断言した。
「救出に行ったものがそれでけがをしていなければいいが」
トラップに引っかかりかねない。そうなれば、混乱が激しくなるのではないか。
もっとも、と心の中だけで付け加えた。それがアスランならばかまわないが。
「……うん……」
そんなことを考えていたときだ。キラの声が耳に届く。
「起きたのか?」
即座にカガリが問いかけた。だが、その問いかけに返される言葉はない。
「寝ぼけただけか」
ほっとしたようにカガリは呟く。
「このまま、ギナ様達が戻ってくるまで眠っていてくれればいいんだけど」
中途半端に起きて、寂しい思いをしないように。彼女はそう続ける。
「だが、万が一のことを考えると起きていてもらった方がいいかもしれない」
あの二人に限って、そのようなことはないと思うが。カナードはそう言い返す。
「まぁ、キラの体調次第だが」
一番問題なのはそれだ。
「最近、慢性的な寝不足だろう、そいつ」
あれこれありすぎたせいだ。だから、仕方がないとも言える。
「……そうですね」
レイが小さくうなずく。
「まぁ、今回のことで全ての片がつくと思うがね」
ギルバートはそう言う。
「さて。君たちを送る役を勝ち取れるように裏工作をしておくか」
そのときはレイも一緒に、と彼は付け加える。
「はい」
それに、レイが嬉しそうにうなずいて見せた。その声でキラが起きてしまったのは愛嬌というものだろう。