空の彼方の虹
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まさか、ここでブルーコスモスの動きが活発になるとは思わなかった。
「全く……」
こんなに働くことになるとは、とムウはぼやく。
「往生際が悪い」
ため息とともにそう付け加えた。
もっとも、それは仕方がないのかもしれない。連中にしてみれば存亡の危機なのだ。
しかし、とムウは思う。
いい加減あきらめて現実を受け入れろ、としか言いようがない。
大西洋連邦などにも、自分の子供をコーディネイトしたい者はいるのだ。もちろん、理由はプラントのそれとは違っているが。
そして、コーディネイターの方もナチュラルとの関係を改善したいと考えている者もいる。
今まで、それを邪魔していたのが戦争とブルーコスモスだと言っていい。
ようやく、それが終わると思ったのに、と思わずにいられない。
「でも、誰もセイランの連中を助けようとしないというところがな」
ブルーコスモスにとって、連中はただの道具だったという証明だろう。
あるいは、自分達以外は皆、同じようなものなのかもしれない。使えなくなったら捨てる。代わりはいくらでもいると思っているのだろう。
ひょっとしたら、自分達自身もそう考えているのではないか。
「それがわからないってことは、連中はやっぱり馬鹿だったんだな」
セイランは、とムウは付け加える。
「ムウ君」
そんな彼の背中に声が届く。
「シモンズ主任、何か?」
振り向きながら、こう問いかける。
「準備ができましたわ」
にっこりと微笑みながら彼女はそう言い返してきた。
「ナチュラル用のOSを積んだアストレイです」
がんばって乗りこなしてください、と彼女は続ける。
「全く……何でも俺に押しつけないで欲しいものですね」
思わずこう呟いてしまう。
「あなただから期待しているのよ」
コーディネイターにも負けないだけの身体能力を持っているから、とエリカは口にした。そうでなければ、あの癖の強い兄弟達をまとめることなんてできないのではないか。
「それに、サハクのお二人からの厳命でしたし」
試作機にはムウを乗せるように、と彼女は言う。
「ミナ様に手ほどきを受けたのでしょう?」
「こうなるとわかっていたら、逃げ出していましたがね」
最初からそのつもりだったのか。ため息とともにムウは言う。
「まぁ、その後が怖いから、やらないけど」
「それがいいと思いますわ」
小さな笑いとともにエリカがうなずく。
「全く……地球軍にいたときの方が気が楽でしたね」
だが、自分らしくいられるのはこちらだ。そのために少々こき使われるのも仕方がないか。
「そんなことを言っていると、お二人に叩き落とされますよ?」
小さな笑いとともにこう言われる。
「だよな」
あの二人なら、一才の手加減なしでやるだろう。
「弟たちにいいところも見せないといけないし……がんばりますか」
長男の意地にかけて、と続ける。
「すぐにでも発進できるんですね?」
「えぇ」
ムウの問いかけに、エリカはうなずいてみせる。
「じゃ、落とされない程度に行ってきますか」
言葉とともにムウはヘルメットへと手を伸ばす。
「データーをよろしくお願いしますね」
エリカの言葉に苦笑を浮かべる。その表情のまま、彼は歩き出した。