空の彼方の虹
166
キラが小さくため息をつく。
「ミナ様なら大丈夫だ」
即座にカガリが彼の肩を抱きながらそう言った。
「個人的には、犯人の制止の方が気になるんだけど……」
それにキラはこう言い返す。
「それと、ラウさんの胃も」
胃薬持っていったかなぁ、と彼は続けた。
「さすがのラウさんも、ギナ様とミナ様、二人相手では荷が重いか?」
カガリがそう言いながら首をかしげる。
「大丈夫だろう」
カナードが口を開く。
「どうして?」
キラが首をかしげながら聞き返す。
「ここにはムウさんがいないからだ」
彼がきっぱりと言いきった瞬間、ギルバートは耐えきれずに笑い声を漏らした。
「ギル?」
「ギルさん?」
即座にキラとレイから非難の色をにじませた声がかけられる。
「確かに。ここには彼がいないね」
だが、ギルバートは平然と言い返す。
「彼がいないと言うことは、ラウ達の足かせがないと言うことだよ。ついでに、彼まで暴走する心配をしなくていいと言うことだ」
それだけでもラウには楽だろうね、と彼は続けた。
「今の彼には、心配しなければならない相手が二人もいるのだし?」
それも破壊力抜群の、とギルバートは笑う。
「私としては、評議会ビルの再建費用がどれだけかかるか。その方が怖いがね」
さらりととんでもないことを言われたような気がするのは錯覚だろうか。
「いくらサハクのお二人でも、あのビルを全壊させるのは無理じゃないかな?」
カガリが頬を引きつらせながらこう言った。
「でも、ミナ様とギナ様だよ?」
特にギナは、その気になれば素手で壁を破壊することはできるのではないか。キラはそう言う。
「そうでなくても、あの人のことだ。爆弾の一つや二つ、隠し持っていると思うぞ」
カナードが口を挟んでくる。
「もちろん、ミナ様もな」
彼女もそれなりに武器を隠し持っているはずだ。おそらく一人であれば無条件で占拠犯をなぎ倒していただろう。カナードはそう断言する。
「……ミナ様なら、そのくらいはやるか」
カガリもそれには同意らしい。
「そうなの?」
「……すでに、一度、やられている」
カガリの答えに、キラは目を丸くした。
「僕、それ、知らない」
いったい、いつのことか。記憶の中を探ってもすぐには答えが出てこない。
「お前には教えてないからな」
心配かけたくない、とミナが言ったから。カナードがそう言ってくる。
「お前を置いてしばらく三人でいなかったときだ」
そう言われても、そんなことは何回もあるではないか。
「深く考えるな。相手はともかく、ミナ様は無傷だったしな」
「……それはそれで問題なような気がするけど……」
キラはため息とともに言葉を綴る。
「何よりも、今回はオーブではないからな。そこまで無茶はしないだろう」
二人とも、とカナードは言葉を締めくくった。
「だといいけど」
一抹の不安が残るのはどうしてなのだろうか。
「大丈夫ですよ、キラさん」
そう言ってレイが微笑む。それすらうさんくさく思えるのはどうしてなのだろうか。
その答えがどうしてもわからなかった。