空の彼方の虹

BACK | NEXT | TOP

  163  



 ラウの端末が着信を告げてくる。
「私だ」
 相手を確認してから応答の言葉を口にした。その声に微妙に嫌悪感がにじんでいたのは、あまり好ましくない相手だからだ。
「先ほどはどうも」
 それで何の用なのか。通話をたたき切りたくなる気持ちを抑えて問いかける。
 相手にしても自分を嫌っている。だから、それなりの用事なのだろう。
 しかし、相手の口から出たのは予想外の言葉だった。
「……最高評議会ビルが占拠されている?」
 いつの間に、と思う。
「確かに、ブルーコスモス関係者でしょうね、犯人は」
 問題は『誰が』と言うことではないか。
 相手は間違いなく武力を持っている。その事実から犯人はザフトの人間なのだろうと推測できる。しかし、問題は誰が首謀者なのか。
「わかりました。とりあえず、そちらに合流しましょう」
 仕方がない。自分達が何とかするしかないのだろう。そう判断をしてラウはそう告げる。
「うちの隊の者達も遠慮なく招集してください」
 さらにそう続けた。
「では、現場で。バルトフェルド隊長」
 必要な会話が終われば、後は通話を終わらせるに限る。そうでなければ、いつまで理性を保てるかわからない。
「と言うことですので」
 申し訳ありませんが、と付け加えながらラウは腰を上げる。
「ラウさん……」
「心配いらないよ、キラ。すぐに戻ってくる」
 すぐに制圧できるだろう。彼はそう続けた。
「人質の中に、ミナ様がいらっしゃるようでね」
 苦笑とともにそう付け加える。
「姉上が?」
 真っ先に反応したのは、やはりと言っていいのか、ギナだった。
「はい。戦後のことについて話し合っていたのだそうです」
 サハクの当主であり、オーブの首長の一人であれば当然のことだろう。きっと、事前にウズミ達との話し合いも済ませていたに決まっている。
「幸いと言っていいのか、マルキオ師は別行動を取られていたようなので……」
「なるほど。姉上が暴れても大丈夫か」
 苦笑とともにギナはそう言った。
「……そこまであからさまに言わなくても……」
 カガリがぼそっと呟く。どうやら、彼女は未だにミナに夢を抱いているらしい。
「だが、周りにいるのがコーディネイターだけならば、自分の身ぐらい守れるだろう、と考えるのがミナ様だぞ」
 キラ以外は皆、そんな扱いだ。カナードがそう言いきる。
「言われてみれば……私はナチュラルでよかったかも」
 その一点だけで、自分はミナの庇護対象となっている。そうでなければ、戦場の真ん中に放置されるぐらいされたかもしれない。彼女はそう付け加えていた。
「あぁ、そのくらいはやるであろうの」
 ギナが笑いながらカナードへと視線を向ける。そうすれば、苦虫を噛み潰したような彼のヒョウ所が見えた。おそらく、実際にそのような経験があるのだろう。
「ともかく、お前はキラとカガリ、そして歌姫を守っておれ。私は姉上の近くまで行ってこよう」
「ギナ様」
「安心しろ。ザフトの邪魔はせぬ」
 その言葉をどこまで信じていいものか。だが、確かに無視することもできないのだろう。
「わかりました。ご一緒にどうぞ」
 ラウはそう告げる。
「そうさせてもらおう」
 カナード達はここで待て、とギナは言った。
「クライン議長のことは心配いらぬ。姉上が最大限のフォローをするであろうからな」
 視線をラクスに移すとギナはそう続ける。
「わかっておりますわ」
 自分は下手に動かない方がいいことも、と彼女は微笑む。
「デュランダル、後は任せたぞ」
 そのまま、ギナは壁際にいる彼に声をかけた。
「もちろんです。二人とも、気をつけて」
 ギルバートはそう言って微笑む。それを合図に、二人は避難場所を後にした。


BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝