空の彼方の虹
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ラウの端末が着信を告げてくる。
「私だ」
相手を確認してから応答の言葉を口にした。その声に微妙に嫌悪感がにじんでいたのは、あまり好ましくない相手だからだ。
「先ほどはどうも」
それで何の用なのか。通話をたたき切りたくなる気持ちを抑えて問いかける。
相手にしても自分を嫌っている。だから、それなりの用事なのだろう。
しかし、相手の口から出たのは予想外の言葉だった。
「……最高評議会ビルが占拠されている?」
いつの間に、と思う。
「確かに、ブルーコスモス関係者でしょうね、犯人は」
問題は『誰が』と言うことではないか。
相手は間違いなく武力を持っている。その事実から犯人はザフトの人間なのだろうと推測できる。しかし、問題は誰が首謀者なのか。
「わかりました。とりあえず、そちらに合流しましょう」
仕方がない。自分達が何とかするしかないのだろう。そう判断をしてラウはそう告げる。
「うちの隊の者達も遠慮なく招集してください」
さらにそう続けた。
「では、現場で。バルトフェルド隊長」
必要な会話が終われば、後は通話を終わらせるに限る。そうでなければ、いつまで理性を保てるかわからない。
「と言うことですので」
申し訳ありませんが、と付け加えながらラウは腰を上げる。
「ラウさん……」
「心配いらないよ、キラ。すぐに戻ってくる」
すぐに制圧できるだろう。彼はそう続けた。
「人質の中に、ミナ様がいらっしゃるようでね」
苦笑とともにそう付け加える。
「姉上が?」
真っ先に反応したのは、やはりと言っていいのか、ギナだった。
「はい。戦後のことについて話し合っていたのだそうです」
サハクの当主であり、オーブの首長の一人であれば当然のことだろう。きっと、事前にウズミ達との話し合いも済ませていたに決まっている。
「幸いと言っていいのか、マルキオ師は別行動を取られていたようなので……」
「なるほど。姉上が暴れても大丈夫か」
苦笑とともにギナはそう言った。
「……そこまであからさまに言わなくても……」
カガリがぼそっと呟く。どうやら、彼女は未だにミナに夢を抱いているらしい。
「だが、周りにいるのがコーディネイターだけならば、自分の身ぐらい守れるだろう、と考えるのがミナ様だぞ」
キラ以外は皆、そんな扱いだ。カナードがそう言いきる。
「言われてみれば……私はナチュラルでよかったかも」
その一点だけで、自分はミナの庇護対象となっている。そうでなければ、戦場の真ん中に放置されるぐらいされたかもしれない。彼女はそう付け加えていた。
「あぁ、そのくらいはやるであろうの」
ギナが笑いながらカナードへと視線を向ける。そうすれば、苦虫を噛み潰したような彼のヒョウ所が見えた。おそらく、実際にそのような経験があるのだろう。
「ともかく、お前はキラとカガリ、そして歌姫を守っておれ。私は姉上の近くまで行ってこよう」
「ギナ様」
「安心しろ。ザフトの邪魔はせぬ」
その言葉をどこまで信じていいものか。だが、確かに無視することもできないのだろう。
「わかりました。ご一緒にどうぞ」
ラウはそう告げる。
「そうさせてもらおう」
カナード達はここで待て、とギナは言った。
「クライン議長のことは心配いらぬ。姉上が最大限のフォローをするであろうからな」
視線をラクスに移すとギナはそう続ける。
「わかっておりますわ」
自分は下手に動かない方がいいことも、と彼女は微笑む。
「デュランダル、後は任せたぞ」
そのまま、ギナは壁際にいる彼に声をかけた。
「もちろんです。二人とも、気をつけて」
ギルバートはそう言って微笑む。それを合図に、二人は避難場所を後にした。