空の彼方の虹

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「これはどういうことだ?」
 自分達に銃口を向けている者達へ、パトリックが問いかけている。
「あなた方の身柄と引き替えに、あれを手に入れるだけですよ。同時に、我らの盟主も解放していただく」
 相手は平然とそう言ってきた。
「そうすれば、こんな砂時計、全て壊してもかまわない」
 さらにこう付け加える。
「貴様もコーディネイターだろうが!」
 ホワイトがこう怒鳴った。
「望んでそう生まれたわけではない!」
 自分はナチュラルとして生まれたかった。そうすれば、こんな狭い場所に閉じ込められて成長することはなかったはずだ。そう言い返してくる。
「ユウキ……貴様……」
 今まで、よくも素知らぬふりで自分達をだましてくれたものだ。パトリックが呟いていた。。
「だから、彼らの情報が筒抜けだったのか」
 こう言ったのはシーゲルだ。
「申し訳ないな、サハク殿」
 彼は隣にいるミナへと声をかける。
「お気になさらず。我が国の状況を考えても、内通者がいるだろうとは思っておりました」
 しかし、ここまで中枢に近い場所にいるとは思わなかったが。ミナは心の中でそう付け加えた。
 それよりも、とかすかに眉根を寄せる。
 いったい、どうやってこの場を切り抜けるか。それが一番重要ではないだろうか。
「さて、どこまで介入が許されるかな」
 小声でこう呟く。
「早く迎えに行ってやらんと、キラが熱を出しかねん」
 実際に顔を見て話をする。それだけのことがどれだけ安心できることなのか。キラを見ていればわかるような気がする。
 それに、と微苦笑を浮かべる。
「ギナ達が暴走する前に止めないとな」
 下手をしたら、新たな戦争が始まってしまうかもしれない。そうなれば、ブルーコスモスの残党が息を吹き返してしまう。
 何よりも、と彼女は幽鬼を見つめる。
 あれらはキラ達をただの道具にするつもりだ。
 そんなことをさせるわけにはいかない。
 どのような生まれだろうと、彼らは彼らだ。人間らしく生きる権利があるはず。
 それを邪魔するものは徹底的に排除するだけだ。
「……ギナにばれれば、絶対に乗り込んでくるだろうしの」
 キラは別格として、自分にも何かがあれば彼は動くに決まっている。
 それがどのような結果になるのか。考えたくもない。それよりも、自分で動いた方がいいのではないか。
「サハク殿?」
 シーゲルが小声で問いかけてくる。
「まだ、無謀なことはしませんよ」
 奇襲で重要なのはタイミングだ。
 今は、連中の意識がこちらに向けられている。それではどれだけの達人であろうと勝てはしない。
「自分一人ならばともかく、ここには皆様がおられるからな」
 後一人、自分と同レベル以上に戦える人間がいれば話は別だが、と心の中で付け加える。
 逆に言えば、そう言う人間がいないとわかっているからの凶行だろう。
 同時に、あのユウキという男がどれだけ信頼を得ていたかもわかったような気がする。
 そうでなければ、この場の警備など任されるはずがない。
「とりあえず、外にこの状況を伝えられればな」
 そうすれば、状況を打開することができるのではないか。
「それに関しては、すでに手を打っていると思うが……」
 問題は、ユウキがどこまでここのシステムを掌握しているかだろう。シーゲルがそうささやいてくる。
 そうでなかったとしても、そろそろ、自分達と連絡が取れないことを不審に思う者達が出てきてもおかしくはない。
「今しばらく我慢するべきでしょうね」
 きっと、状況は動く。それまでは、とシーゲルは言う。
「そうですね」
 もどかしいが仕方がない。ミナは小さなため息とともにそうはき出していた。


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最遊釈厄伝