空の彼方の虹
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アスラン達がプラントにたどり着いたのは、ラウに遅れること半日だった。
「……アスハの姫がブルーコスモス残党に狙われていたとはな」
「それよりも、ザフト内部にあんなにブルーコスモス関係者がいたことの方が驚きだぞ」
管制員がこんな会話を交わしているのが耳に届く。
「……カガリ?」
本当に狙われたのは彼女なのか。アスランの中にそんな疑問が浮かび上がってくる。
「キラが狙われたのかもしれないだろう」
最初の時からそうだったではないか、と呟いた。
何よりも、ラウの行動がある。カガリ一人であれば、彼があのような行動を取らなくてもいいような気がする。
「だが、タイミングがタイミングだから、仕方がないのか」
まだ、アズラエルの存在はザフトの手の中にあるのだ。カガリの安全を盾にその身柄を要求したとしてもおかしくはない。
犯人がザフトの一員であれば、プラント側も知らんぷりはできないだろう。
「無事なんだろうが」
自分達に何の命令もないと言うことは、と呟く。しかし、それを自分自身の目で確認することはできないだろう。
自分がそうしたいと思っても、許可を出してもらえるはずがない。
強引に顔を見に行くという方法もあるが、危険を脱したばかりのキラに負担をかけるのは目に見えている。さすがに、それは避けたい。これ以上、嫌われなくなのだ。
今も嫌われているようなものかもしれない。
だが、関係を改善できる可能性だってないとは言えない。
「俺の《キラ》じゃない、らしいけどな」
今でも『彼は《キラ》だ』とアスランは信じている。だが、あそこまで否定されれば違うかもしれないと思わなくもないのだ。
何よりも、年齢については反論のしようがない。
「……父上も、あの子には興味を持っているようだし……本当に何者なんだ?」
彼は、とため息をつく。
「まぁ、いい。情報を集めるのが先決だな」
何が起きているのか。それを知らなければいけない。
そして、それを解決できれば、彼らに恩を売れる。カガリだって、自分が『キラに会いたい』と言っても反対はされないはずだ。
「正攻法でいくのが一番早いのか」
仕方がない、と呟くとアスランは歩き出した。
キラが小さなあくびを漏らす。
「お休みになっていただいてもかまいませんわ」
即座にラクスがそう言う。
「何でしたら、子守歌を歌わせていただきますけれど?」
さらにこう付け加えたのは、自分が《歌姫》だからだ。
「ラクス、お前な」
カガリがあきれたように口を開く。
「キラには私もカナードさんもいるのに?」
「それでも、子守歌でしたら、わたくしの方がうまいですわ」
違うのか、と聞き返す。
「そう言う問題じゃないだろう?」
全く、とカガリはあきれたような視線を向けてくる。
「お前が歌えば、ここにお前がいると必要のない人間まで知られるだろうが」
その結果、余計な馬鹿までおびき寄せたらどうするのか。カガリはさらにそう付け加えた。
「大丈夫ですわ」
それにラクスは胸を張ってこう言い返す。
「ラクス?」
「アスランはここまでたどり着けませんもの。近くに来ても入れませんわ」
ギナ達が帰ってくればわかると思うが、とラクスは笑みを深める。
「ですから、安心してください。ロンド・ミナ様と父が来るまで、ごゆっくり過ごしていただけますわ」
そう言う場所を選んだのだ。ラクスはそう続けた。
「普段は、わたくしが使っている控え室なのです。コンサート前には余計な雑音を聞きたくないですもの」
集中するためにも、と言えばカガリも納得したようにうなずいてみせる。
「ですから、ここにはアスランは入れません。セキュリティが別になっていますもの」
認証も、だ。
「そういうことですので、子守歌を歌わせていただきますわね」
ラクスはそう言うと立ち上がった。