空の彼方の虹

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 プラント内部に戻れたからとはいえ、完全に安全とは言い切れない。だが、ギナだけではなくラウも一緒にいるという事実は心強い。
「大丈夫だったね?」
 白い軍服の裾を翻しながら、ラウは歩み寄ってくる。
「本当にノーマルスーツなしで乗っていたんだ」
 キラがあきれたように呟く。
「そう思うでしょう?」
 即座にレイが口を開いた。
「いつも言っているのに、聞いてくれないんです」
 さらに彼はこう言葉を重ねる。
「キラを巻き込むとは卑怯じゃないかね?」
 笑いながらラウはそう言う。
「第一、時間がなかったのでね」
 一分一秒が惜しかったのだ。そうでなければ間に合わなかったかもしれない。
「それとも、間に合わなくてもよかったのかな?」
 これは意地悪な質問かもしれない。それがわかっていても、ついついこう問いかけてしまった。
「誰もそう言ってはいません!」
 怒ったようにレイが言い返して来る。
「ただ、キラさんが心配するんです」
 もちろん、自分も! と彼は続けた。
「……それは悪いことをしたね。だが、私を撃墜できるとすれば、ギナ様かムウぐらいだろう」
 もちろん、気の緩みが最悪の結果を招きかねないと言うことはわかっている。だが、とラウは続けた。
「それに、戦争は終わったからね」
 もう、これ以上、大きな戦いはないだろう。小競り合い程度であれば、自分が出撃する必要はないのではないか。そうも付け加える。
「それに、確かギナ様もノーマルスーツは着ておられないはずだが?」
 こうなれば一蓮托生とばかりに言葉と重ねた。
「ギナ様は仕方がないです」
 しかし、キラが口にした言葉はラウが予想していたものとは全く違った。
「キラ?」
 何を言いだしたのか。そう考える。
「だって、ギナ様ですよ? 誰が何を言っても自分のやりたいようにされるに決まっています。その代わり、ちゃんと対策を取っていらっしゃるはずですけど」
 それはどうだろう、とラウは思う。しかし、キラは断言する程度には信じているらしい。
「兄さんもギナ様も、最初に約束してくれましたもん。絶対に帰ってきてくれるって」
 彼らが約束を破るはずがない。だから、ノーマルスーツを着ていなくても文句を言うつもりはない。キラはそう続ける。
「そうか」
 何か悔しい、と思う。きっと、自分やムウではこんな風に考えてもらえないはずだ。そんなことを考えながら、少し離れた場所にいるギナへと視線を向ける。そうすれば彼の勝ち誇ったような表情が確認できた。
「そういうことですから、ラウ」
 さらにレイまでもが彼らの味方らしい。
「……まったく……私の擁護をしてくれる人間は誰もいないのか」
 思わずため息とともにこう言ってしまう。
「人の話を聞かない人間に、そんなことをする必要があると思います?」
 それにレイが追い打ちをかけてくれた。
「さっさと謝った方がよいと思うぞ?」
「もしくは、おとなしくノーマルスーツを着ることにするかですね」
 自分はそうした、とカナードは笑う。
「……君もか」
 カナードに関してはまだ理解できる。キラがこれ以上、大切な誰かを失うことがないようにしたい。そう考えてのことだろう。
「ラウさん?」
 キラがまた彼の服の裾を握りしめながら呼びかけてくる。その不安そうな瞳には勝てないな、とラウは心の中で呟く。
「極力気をつけることにするよ。それで妥協してくれないかな?」
 苦笑を浮かべながらそう言う。
「そのあたりで我慢しておけ、キラ。それが一度約束した言葉を違える男ではないと、お前も知っておるだろう?」
 ギナが口を挟んでくる。
「それに、迎えも来たようだしの」
 言葉とともに彼はある方向を指さす。そちらへと視線を向ければ、ギルバートの姿が確認できる。
「とりあえず、落ち着ける場所に移動しようか」
 まずはそれからだ。そう続けると、らうはキラの体を抱き上げる。
「ラウ、ずるいです!」
 即座にレイが文句を言ってきた。
「君では無理だろう? それに、キラは少し眠った方がいい」
 そう言うと、ラウはさっさと歩き出す。
「……すぐに大きくなって見せます!」
 彼の言葉にラウだけではなくカナード達も笑い声を漏らした。


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最遊釈厄伝