空の彼方の虹
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目の前で戦闘が行われている。
「あんな近距離で……プラントに何かあったらどうする気だ?」
状況によってはヘリオポリスの二の舞ではないか。ラウは眉間にしわを寄せるとそう呟く。
しかし、とすぐに思い直す。
ここでザフト同士の戦闘が行われていると言うことは、キラ達が近くにいると言うことではないか。そして、まだ、彼らの身柄は無事だと言うことでもある。
「どこだ?」
そう呟いたときだ。
『ラウさん?』
通信機からキラの声が響いてくる。
「無事だね?」
反射的にこう問いかけた。
『みんな無事です。でも、どう動けばいいのか、判断がつかなくて』
ギナとカナードは船外にいてこちらへの流れ弾を処理しているが、とキラは続ける。
「今、そちらに行く。正確なポイントを教えてくれるかね?」
こう言いながら、ラウはバッテリーの残量を確認した。
長時間の戦闘は無理だが、ギナ達のフォローならば可能だろう。その後はどこかでバッテリーの交換をしなければいけないか、とそう付け加える。
「オーブのものと規格があえばいいが」
だめならば、そのときはそのときだ。ラウがそう判断をしたときだ。モニターにいくつかの数字が表示される。
「さすがはキラだね。もっとも、あまりハッキングをされるのも困るが」
そのあたりのことは後できっちりと話し合おう。そう呟く。
今はそれよりも、彼らを安全な場所へ誘導する方が先決ではないか。
「さて……急がないと何を言われるかわからないね」
こう呟くと、ラウは表示されたポイントへと向かった。
二つの陣営の戦闘はさらに激しさを増していく。
「こちらに本格的な攻撃を仕掛けてこないだけましか」
もし、連中が共同でこちらに攻撃を仕掛けてきたらどうなるか。防ぐことはできるだろうが、カガリ達にも引き金を引かせることになってしまう。
それだけはさせたくない。
こう考えるのは甘いのだろうか。
「カガリはともかく、他の二人は引かなくてすむなら引かせたくないな」
彼らには戦う以外の選択肢もあるのだ。
むしろ、彼らの才能は戦い以外の場所にあると言っていい。それを伸ばせる環境においてやりたい。
カナードがそんなことを考えていたときだ。
『ラウさんが来たよ』
スピーカー越しにキラの声が届く。
「わかった」
これで少しは楽になったかもしれない。カナードは心の中でそう呟く。
だが、すぐに緩みかけた気持ちを引き締めた。ここで気を緩めれば、被弾する可能性がある。安心するのは、本当に安全だと思える場所に避難してからにすべきだろう。
『あれが合流したら移動をする。準備をしておけ』
ギナがそう指示を出す。
『はい』
キラも素直に言葉を返した。
「安全な場所に行ければいいが」
カナードはそう呟く。
『それこそ、姉上と歌姫が何とかするであろ』
そのつぶやきに、ギナがこう言い返してくる。
『カガリ。よいな?』
『ラクスに連絡を取ります。もっとも、通じるかわかりませんが』
ギナの言葉に彼女はすぐにそう告げた。
『かまわん。そのときはそのときだ』
三人いれば何とかなるだろう。ギナにしては珍しく行き当たりばったりのセリフを口にしてくれる。
だが、確かにそれしかないのではないか。
「本当に厄介だな」
戦争が終わったというのに、とカナードは眉根を寄せていた。