空の彼方の虹
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バッテリーの換装を終わらせると、ギナはカナードとともにブリッジへと移動した。
「ギナ様」
その瞬間、キラがほっとしたような視線を向けてくる。
他の二人は、と言えば、通信機にかじりついていた。
「何があった?」
小声でそう問いかける。
「ザフトからの通信が入ったのですが……救援なのかそれとも追っ手なのか、判断がつかなくて」
どちらともとれるような応答をしてくるのだ。キラはそう告げた。
「そうか」
確かに、カガリでは経験が少なすぎて、その判断はまだ無理だろう。
かといって、自分が出て行っていいものか。
襲撃相手の場合、下手な警戒をさせない方がいい。それに、カガリにも経験を積ませるべきだろう。
しかし、と思ったときだ。キラがギナの袖を引いてくる。何事かと視線を向ければ、ヘッドセットが差し出された。
「キラ?」
「これで、相手の言葉が聞けます」
そうすれば、ギナも状況をつかむことができるだろう。キラはそう続けた。
「確かにの。後は我がこっそりと助言をすればいいことか」
自分は表に出なくてすむ。そして、カガリにも経験を積ませることができる。
「よい子じゃ、キラ」
こういうことをすぐに思いつけると言うことは、彼なりにいろいろと考えていると言うことだろう。カガリよりも経験値という意味では上なのではないか。
「お前はいつでも発進できるようにしておけ」
言葉とともにギナはキラの頭をなでた。
「俺はデッキに戻りますか?」
その言葉にカナードがこう問いかけてくる。
「……お前もここにおれ。そのときは、私が出る」
ギナは少し考えてこう言い返す。
「あれが襲撃者だった場合、キラだけでは荷が重いであろうからの」
攻撃を避けるという点で、と続けた。その言葉の裏に隠れている意味にカナードならば気がつくだろう。そう判断してのことだ。
「わかりました」
予想通り、彼はこの言葉とともに操縦席に着く。
それではカガリのフォローに、と思いながらキラが渡してきたヘッドセットを耳につけたときだ。
「……ザフト同士で戦闘を始めた?」
嘘だろう、と呟くカガリの声がブリッジ内に響く。
「どうした?」
即座にカガリに問いかけた。
「わかりません。後から追いついてきたザフトの船が、いきなり今まで更新していた方の船を攻撃したんです」
そんな話は全くなかった。彼女はそう続ける。
「どちらかが襲撃者なのでしょうが……」
レイがそう言って顔をしかめた。
「今の俺たちでは判断ができないかと」
確かにそうだ。
「困ったの」
さて、どうするか。ギナもそう言って顔をしかめる。
「とりあえずは静観するしかないのか」
あるいは、別のルートから情報を仕入れるべきかもしれない。
「こういうときに、ラウがこの場におればの」
彼に調べさせればよかったのだが、とギナは苦笑を浮かべる。
「そんなことを言うと出てきますよ、ラウは」
レイが真顔でこんなセリフを口にした。
「……ラウさんならやるな。あの人の趣味は、おいしいところを持っていくことだ」
過去に何かあったのか。カガリもそう言う。
「噂をすれば影だ」
さらにカナードがこういうにおいては苦笑を浮かべるしかできなかった。