空の彼方の虹

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「間に合えばよいが」
 そう言いながら、ギナは全速でプラントへ向かっていた。
 万が一、機体のバッテリーが切れたとしても、合流できれば何とかなる。
 だが、彼らが拉致をされてしまえば自分では手出しが難しくなりかねない。
「姉上の堪忍袋の緒が切れても怖いしの」
 その場合、新たな火種を産みかねないのだ。
「まぁ、そのときはそのときだな」
 大義名分はこちらにある。いくらでも言い逃れは可能だろう。
 しかし、その前に彼らが傷ついては意味がない。
「姉上のことだ、手を打っているだろうが」
 そして、万が一を考えて脱出艇を試作機に変えてきたが、とギナは呟く。それでも万が一の可能性がぬぐえない。
「キラの精神状態が一番心配だな」
 追い詰められていなければいいが、と呟く。もっとも、そばにカナード達がいるから、以前よりはマシなのではないか。
 しかし、時間の問題だろう。
「全く……厄介事が一つ片付いたと思えば、またか」
 いつになれば平穏な日々を与えてやれるのかの」
 それだけが望みだというのに、と呟く。
「我らの願いなど、ささやかなものなのにの」
 本当に、と付け加えながらさらに速度を上げる。
「やはり、これもこれで終わらなければならぬな」
 そのためにも、誰が黒幕なのかを調べなければならないだろう。だが、それはミナ達に任せればいい。自分は、キラ他とのフォローを優先すべきではないか。
 ギナはそう判断していた。

「パトリック!」
 この言葉とともにシーゲル達が執務室に飛び込んでくる。
「……艦隊には帰還命令を出したぞ」
 そんな彼らに向かってパトリックはそう告げる。
「そうではない! オーブの子供達のことだ!」
 かみつくようにタッドがそう言ってきた。
「オーブの子供達?」
 それが誰を刺すのか、わからないはずがない。しかし、彼らのことでどうしてシーゲル達が押しかけてくるのか。その理由がわからない。
「また、彼らを拉致させようとしているのではないか?」
 シーゲルが静かな声でそう問いかけてくる。
「すでに、デュランダルくんの屋敷は壊滅状態だそうだ」
 本人達は無事に逃れたそうだが、と彼は続けた。
「私はそのような命令は出していないぞ」
 確かに、そのような状況であれば疑われても仕方がないかもしれない。だが、今回は無関係だ。パトリックはそう主張する。
「今は優先すべきことが他にあるからな」
 数万に及ぶザフトの兵士達を安全に帰還させるという、と続けた。
「だが、現実に彼らは襲われている」
 いったい誰が命令を出したというのか。ユーリが呟くようにそう言う。
「……わからないわね、そこまでは」
 可能性はいくつか考えられるが、とエザリアが呟く。
「ともかく、だ。彼らを救援するために残留部隊の一部を動かそう。それでかまわんな?」
 パトリックはそう問いかける。
「代わりに、今はサハクの首長殿には動かぬよう、伝えていただきたい」
 彼女たちが動けば混乱するのではないか。そう続ける。
「善処はしておこう」
 状況次第だが、とシーゲルが言い返してきた。それは当然と言っていいのだろうか。
「しかし、この時に……」
 何を考えているのか、と思わずにいられない。
「この時だからかもしれんな」
 混乱をしている今だからこそ、と彼は続ける。
「ともかく、彼らを守りきればいいだけか」
 早速指示を出そう。そう告げると同時にパトリックは端末へと手を伸ばした。


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最遊釈厄伝