空の彼方の虹

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「何の用かね?」
 アスラン、と顔も上げずにラウは問いかける。
 本音を言えば、彼とつきあっている時間はない。
 それでも無視すれば何をしでかしてくれるかわからない相手でだ。時間を割かないわけにはいかない。
「お聞きしたいことがあります」
 堅い声音で彼はそう言い返してくる。
「手短に頼もうか」
 やらなければいけないことは多い。だから、とラウは言外に続ける。
「……今、プラントにいるキラともう一人のキラはどれだけ同じ学習を受けたのですか?」
 アスランが口にしたのは予想外のセリフだった。
「何が言いたいのかね?」
 かすかに声音を変えてラウは聞き返す。
「隊長が配布したプログラムのソースが、自分が知っているキラのものそっくりでしたので」
 あそこまで似るものなのか。それが疑問だった。そう付け加える。
 そういえば、彼はキラのプログラムを間近で見ていたのだったな。今更ながらそう認識をする。それにしても余計な事を、と思わずにいられない。
「私も詳しいことは知らないが」
 さて、ごまかされてくれるか。そう思いながらラウは言葉を続ける。
「あのプラグラムは二人の《キラ》の共同作品だ、と聞いている」
 ロンド・ミナに。そう言いながらアスランに視線を向けた。
「どうやら、ヤマト家のキラの未完成のプログラムが多数持ち出されたらしくてね。それに対する対策ソフトを、アメノミハシラであの子に作らせたとか」
 元になるソースは未完成ながらもう一人のキラが作っていた。それを完成させただけとも言えるが。そう続けた。
「だから、見覚えのある組み方をしている部分があってもおかしくはないのではないかな?」
 さて、この言葉に彼はどのような反応を見せるだろうか。そう考えながら視線を向ける。
「何故、ですか?」
 アスランはそう聞き返して来た。
「何故、そのままプログラムを流用した上にあの子に作業をさえたのですか?」
「他の人間では短時間に対処がとれないことと、持ち出したのがセイランだったからだそうだが?」
 当然、地球軍に渡ったと考えていい。ならば、至急対策を取る必要があった。
 そして、とラウは続ける。
「カナードが手を放せない時期だったからとも聞いているね」
 彼が自由に動ける時期であれば、きっと、彼がこれを完成させたのだろう。そう続ける。
「このプログラムを理解できるのは彼らぐらいだからね」
 今は、と呟いた意味を、アスランは理解できるだろうか。
「……本人だから、なのではないですか?」
 遠回しでは埒があかないと判断したのだろう。アスランは直接的に問いかけてきた。
「あの子は本当二十三歳なのだがね」
 アスランとの年齢差はどう判断をするのか。ラウは逆にこう聞き返す。
「……それは……」
 さすがの彼もすぐには『コールドスリープ』と連想できないらしい。
 それは仕方がないのではないか。
 冷凍睡眠装置があったのは初期のプラントと火星や木星へと向かう長距離の宇宙船だけだ。完全とは言わなくてもかなり安全性の高まった現在のプラントでは、すでに無用の長物となっているものだし、と思う。
 逆に言えば、それを身近においておかなければいけなかったキラ達の危険というものは、どれだけのものだったのか。
 そして、そのような日々でも、彼を慈しんできたあの人々が、彼を残していかなければいけないとわかったときの絶望はどれだけのものだったのか。
 それでも、彼らはキラを残してくれた。
 だからこそ、自分達は彼を守らなければいけないのだ。
 そのためならば、いくらでも世界を偽って見せよう。ラウはそう考える。
「納得できたかな?」
 これ以上は時間を割けない。言外にそう続けた。
「……ですが!」
「軍務以上に優先すべきことかな?」
 この問いかけに、アスランは悔しげに唇をかむ。これはまだまだ要注意だな、とラウは心の中で呟く。
 本気でカガリの提案を実行したくなったのは言うまでもない事実だった。


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最遊釈厄伝