空の彼方の虹
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敵の旗艦だけではなくブルーコスモスの盟主も捕縛することができた。
その戦果を確認してクルーゼ隊は母艦であるヴェサリウスへと帰投し始める。
アスランもその中の一人だった。
「隊長は、いったいどこからあのプログラムを持ってこられたのか」
ヴェサリウスから送られてきたプログラム。それを使った瞬間、凍り付いていたOSが復活をした。その結果、ザフトが勝利をもぎ取ったというのは否定できない事実だ。
しかし、どこか釈然としない。
おそらくそれは、ラウが対策ソフトを提出してきたタイミングはあまりに合いすぎていたからかもしれない。
「そもそも、どんなプログラムなんだろうな」
これだけ効果的なものならば、その内容が気にかかる。そう考えているのは自分だけではないだろう。
「アスラン・ザラ、着艦する」
ともかく、今は帰還するのが優先だ。それが終わり次第、プログラムを確認すればいい。
自分に言い聞かせるようにそう呟く。
そして、と彼は続けた。
「今なら、まだ、彼らもプラントにいるはずだしな」
後一度、何としても話をしたい。そのためならばどんな手段でも使おう。
「オーブに帰られたらアウトだ」
カガリやギナの態度から判断をして、自分がオーブに入国できるとは思えない。そして、彼がプラントに来ることはないはずだ。
「キラと同じ顔の相手に怖がられているのは不本意だからな」
自分が、と口にしたところでアスランはあることに気づいてしまう。
今までのことは、あくまでも自分の都合だ。キラがどう考えているかなど、考えていない。
だから、キラに嫌われるのだ。
ラクスに先日指摘をされたのはこのことだろう。
「それでも、俺は……」
話がしたい。そして、きちんと納得したい。そうでなければ、前に進めないのだ。
『アスラン・ザラ。着艦を許可する』
そんな彼の思考を遮るかのように、スピーカーからオペレーターからの声が流れてくる。
「了解」
とりあえず、着艦するか。アスランはそう判断をするとイージスをゆっくりと移動させていった。
「困ったお馬鹿さんですわね」
ラクスはそう言ってため息をつく。
「今更、何をしようとされているのか」
ようやく戦争が終わろうとしているこの時に、とラクスは呟く。
「いえ。今だからかもしれませんわね」
彼女はそう付け加えた。
「だからと言って、認められるわけではありません」
彼らはプラントのための人柱ではないのだ。だから、とラクスは視線を移動させる。
「徹底的に邪魔をさせていただきましょう」
自分にはそうする義務があるから。そう呟く。
「わたくしの大切なお友達ですもの」
家族は生まれたときから決まっている。そして、プラントでは結婚相手を自由に選ぶことはできない。
友だちだけが自分の意思で選べる相手だと言っていい。
しかし、それは同時に壊れやすい絆でもある。
だからこそ、細心の注意を払って大切にしなければいけないのだ。
「アスランにはわからないのでしょうけど」
自分の考えを押しつけようとしていたのだから、とラクスは付け加える。だからこそ、キラに嫌われているのに、本人だけはそれに気づいていない。
「今のままでしたら、時間が状況を変えてくれる可能性もありますのにね」
だが、何度も繰り返していけば小さなひびも次第に大きくなり、やがて崩壊するだろう。いや、すでに崩壊しているのか。だが、彼はそれを修理する時間も与えようとはしていない。
「困った方ですわね、本当に」
とりあえず、今は彼らをフォローすることを優先しよう。そう呟くとラクスはゆっくりと立ち上がった。