空の彼方の虹
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とりあえず、食事後だったことは不幸中の幸いなのだろうか。
カガリはそんなことを考えてしまう。
「……どうやら、もうなりふり構っていられないようだな」
壁越しに伝わってくる振動にカナードが眉根を寄せる。
「いずれ、ここにも押し入られるか」
その前にミナ達が戻ってきてくれればいいが、と彼は続けた。
「カナードさん、こちらに」
床に膝をつきながらレイが呼びかけてくる。そのそばにはひみつ通路らしきものが存在していた。
「それは?」
「非常用の脱出ルートです。外部に逃れるための避難艇に続いています」
不本意だが、そちらに移動した方がいいだろう。彼はそう続ける。
「そうだな。最悪、そのままギナ様と合流するしかないか」
いっそ、ギナがアメノミハシラを残しておいてくれればいいのに。そんなことも考えてしまう。
「キラ。カガリも」
こっちだ、とカナードは二人を手招く。
「……みんな、大丈夫かな?」
小走りに駆け寄りながら、キラはこう問いかけてくる。
「心配はいりません。万が一の時には、ここの存在を教えてもいいと伝えてあります」
自分達の命と引き替えに、とレイは言ってきた。
「ここが攻撃されていると言うことはその命令を遂行したのでしょうね」
もっとも、彼らもこちらの通路については知らない。そして、とレイは続ける。
「この入り口は、中から閉じてしまえばこちらからは空けることは不可能です。それだけではなく、しばらく言ったところで操作をすれば、通路自体が完全に封鎖されます」
そこまですれば、彼らはここから追いかけてくることは不可能だ。
「目的地で待ち伏せされる可能性は?」
カガリがこう問いかける。
「ないと思います。ここ以外のルートは内部にはありませんから」
プラントの外部から回るのならばともかく、とレイは続けた。
「そのときは、あれを使うまでだ」
カナードがそう言って笑う。
「近くに隠してあるからな。リモートアクセスで呼び寄せられる」
サハクの双子のアイデアだが、と彼は続けた。
「……お二人とも過保護だよね」
キラが小さなため息とともに付け加える。
「まぁ、気持ちはわかるさ。もう二度と、お前を失いたくないだけだ」
キラの行方がつかめなかったあの三年間を、自分も改めて体験したくない。
「そうだな。お前が見つからなかったひびは辛かった。ダイエットにはよかったかもしれないが」
「何を言っている。やけ食いをして逆に太っただろう? マーナさんが嘆いていたぞ」
ドレスが全滅だと、とカナードは笑いながら言う。
「カナードさん、それはセクハラです!」
即座にカガリが文句を言ってくる。
「なら、こっちにとばっちりが来ないようにしろ」
そのたびに呼び出されていたのは事実だ、とカナードは言い返す。
「……それでか。カナードさんにしごかれていたのは」
今更ながら気がついたのだろう。カガリがそう言ってうなずく。
「おかげで、少しは気分が紛れていたがな」
それでも、キラがいる今とは比べものにならない。
「まぁ、あのときと違って、今は俺がすぐそばで守れるからな」
あのときもそうできていれば、ハルマとカリダも失わずにすんだのだろうか。そう考えているのも自分だけではないことをカナードは知っている。
「二度と、後悔だけはしたくない。だから、お前はおとなしく守られていろ」
カナードはキラに向かってそう言う。
「……うん」
自分が目覚めたときのカナード達の様子を覚えているのだろ。キラは素直にうなずいてくれる。
「お前たちもだぞ。無理はするな」
カナードは他の二人に向かってそう言う。
「邪魔にならないように気をつけます」
「不本意だけどな」
レイはともかくカガリの言葉はなんなのか。後でサハクの双子に締めてもらわないといけないかもしれない。カナードはそう考えながら三人をまず地下へと移動させる。そして、自分もまた、入り口へと体を滑り込ませた。