空の彼方の虹

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 おそらく作業が佳境にさしかかっているのだろう。完全にキラは周囲をシャットアウトし始めた。
 それはかまわない。
 むしろ、いつ見てもその集中力には舌を巻く。
 だが、とカナードはため息をついた。
「食事も取らないのでは、体に悪いな」
 特に、何が起きるかわからない状況では、とカナードは呟いた。そのまま、キラの肩に手を置く。
「キラ!」
 そして、強めに彼の名を呼ぶ。その瞬間、細い肩が大きくはねた。
「……兄さん?」
 ゆっくりと振り向いた彼のまなざしが、カナードの姿を確認する。その瞬間、瞳の奥に安堵の色が浮かび上がった。
 そんなに驚かせたつもりはないのだが、とカナードは心の中で呟く。
「飯だ」
 とりあえず、とそう言う。
「ご飯?」
「あぁ。何があるかわからないから、とりあえず喰え」
 カガリ達も待っている。そう続ければ、キラは小さくうなずいて見せた。
 そのまま、素直に今までの作業を保存していく。
「ずいぶんと聞き分けがいいな」
 珍しい、と呟いてしまったのは、いつもキラをパソコンから引きはがすのに手こずらされているからだ。
「そうかな?」
 本人は自覚がなかったのか。首をかしげながらそう呟いている。
「まぁ、俺が気をつけていればいいだけのことだがな」
 言葉とともに彼の頭に手を置く。
「ほら。カガリが騒ぐ前に行くぞ」
 そのままカナードはそう告げる。
「うん」
 キラも素直にうなずく。しかし、歩き出す代わりに何故かカナードに抱きついてきた。
「どうした? ずいぶんと甘えてくるな」
 もちろん、いやなわけではない。ただ、気になっただけだ。
「……何か、いやな感じだから」
 キラがそう言い返してくる。
「戦争だから、じゃなくてか?」
 カナードが聞き返す。
「もっと近いところから感じる」
 それに言葉を返してくると同時に、キラはさらに体を寄せてきた。
「そうか」
 と言うことは、やはりこの混乱に乗じて何かをしでかそうとしているものがいるのだろう。
「しかし、俺がいるだろう?」
 とりあえず笑いながらこう言ってみる。
「うん」
 即座にキラはうなずいてくれた。それでも、不安そうな表情は完全に消えたわけではない。
「お前一人なら、抱えてでも戦えるぞ」
 だから、任せておけ。そう続ける。
「カガリはともかく、レイはそれなりに使えそうだしな」
 三人いれば何とでもなるだろう。そう続けた。
「……僕だけ、足手まといだね」
「そうではなくて、お前はストッパーなんだよ」
 俺の、とカナードは付け加える。
「だから、あまり余計な事は考えるな」
 それよりも食事だ。そう言って笑う。
「ちゃんと喰わないと、いざというときに困るからな」
 この言葉に、キラは小さくうなずいて見せた。


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最遊釈厄伝