空の彼方の虹
136
「やはり出てきていたか」
ようやく目標を確認できた。ギナはそう呟くとうっそりと笑う。
「己の目で確認しに来るだろうと思っていたが、予想通りだったな」
この状況であればどのようにでも対処できる。そう考えていたのだろう。
しかし、そうはいかない。
「お前を逃がせば、元の木阿弥だからの」
どこで仲間を集め再び同じことを繰り返してくれるかわからない。
「それに、資金源についてもはなしてもらわねばならぬ」
ラウ達やソウキスのことを考えれば、かなりの資金を持っていると考えていい。いざとなれば、それを裏から手を回してかすめ取ってもいいのではないか。
せめて、キラが不自由なく人生を送れる程度には、だ。
「あの子に対する賠償には、それでも足りないだろうがな」
平穏な日々を奪われたその代償には、とギナは口の中だけで付け加える。
「できれば、もう少し両陣営が入り乱れてくれると効果が発揮しやすいのだがな」
だが、それは望みすぎだろう。
ならば、と考えを変える。
双方のシステムに入り口を作ってしまえばいい。ウィルスを流す一回だけ使えればいいのだから、そんなに慎重にしなくてもいいだろう。
「お互いに相手のシステムを乗っ取ろうとしているだろうしな」
それに便乗すればいいだけだ。そう呟きながら相手のセキュリティの穴を探し始める。
「こういうときでなければ、キラを連れて来たのだがの」
さすがにこの光景を彼に見せるのはきついだろう。だから、よかったのではないか。しかし、カナードぐらいはつれてくるべきだったかもしれない。
そんなことを考えながら、ギナは作業を進めていった。
なにやら、首の後ろがちりちりとする。
「以前なら『近くにムウがいるのか』と考えるところだがね」
しかし、彼はすでに地球軍にはいない。しかも、オーブから彼が来ているという連絡も入っていない。
と言うことは、別のことが原因なのだろう。
「ギナ様が何かをしているのか?」
一番可能性があるのはそれではないか。
「そういえば、出がけにディスクを渡されたな、ミナ様に」
ひょっとしなくても、それが関係しているのだろう。
「この状況でこれを使うのは怖いが……使わなければ本気でまずい状況になりかねないか」
事前に何であるのか、確認しておくのだった。そう呟いても後の祭りではないか。
「いざとなれば、OSを初期化すればいいだけのことか」
そのくらいのことは以前から何度も繰り返してきている。戦場で行ったことも一度や二度ではない。だから、手順はしっかりと身についている。
ギナの邪魔をすることとOSの初期化をする手間。その二つを天秤にかければ、前者の方が重い。
「ままよ」
言葉とともに拡張用のスロットにそれを差し込む。次の瞬間、何かのプログラムが組み込まれたようだ。しかし、MSの操縦に何の変化も現れない。
「……OSに不調が出ていないならかまわないか」
そのときになればわかるだろう。ラウはそう呟くと、戦場に意識を切り替える。
「さて……敵の旗艦はどれだろうね」
手っ取り早くこの戦闘を終わらせるには、相手の旗艦を掌握してしまえばいい。
「さて……」
いるとすれば後方だが、と思いながら、周囲の情報を確認する。
「あそこか?」
一カ所だけ、妙に陣形が厚い。もちろん、フェイク妥当可能性も否定しない。だが、それならばそれでかまわない、と思う。
そのときは改めて考えればいいだけのことだ。
「足場を固めるのは悪いことではないからね」
小さな声でそう呟く。同時に、ラウは機体の向きを変える。そのまま、最高速度まで一気に加速した。