空の彼方の虹
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泣きそうな声でレイが連絡を入れてきた。ある意味、緊急事態と言えるだろうが、とミナは苦笑を浮かべる。
「安心しろ。一応、あれにもワクチンソフトを入れたディスクを持たせてある。馬鹿でなければ、使うだろう」
ギナがキラにウィルスを作らせようとしたときから想像がついていた。ただ、どう考えてもラウが出かけるまでに間に合いそうになかった。だから、あるもので済ませろと言ったのだ。
『そうですか』
「そうだ。私の言葉を疑うか?」
まだ不安を隠せないレイに、ミナは逆に聞き返す。
『そう言うわけではありませんが……』
もっとも、彼らのつながりを考えれば仕方がないことなのかもしれない。
「何。ギナには万が一の時にきちんと拾ってくるように言い含めてある」
しっかりとな、と続けた瞬間、レイが少しおびえたようなまなざしを作ったのは何故だろうか。
「だから、お前たちは安心しておれ。ただし、気を抜くでないぞ?」
戦争が終わった瞬間、馬鹿が動く可能性がある。そのときにすぐに動けるのはレイ達だけだ。ミナは静かにそう告げる。
『わかっています』
それは、とレイも表情を引き締め直すとうなずいて見せた。
『そのときは、キラさんを抱えてパニックルームに逃げますから』
カナードとカガリもいるから大丈夫だろう。彼はそう続ける。
「任せた」
ミナはそう言うと、通話を終わらせた。
「ミナ様?」
何か、とマルキオが問いかけてくる。
「戦場の様子に、子供達が不安を抱いたようです。ギナが出がけにいたずらをしていったのもまずかったようですね」
困った弟です、とミナは続けた。
「落ち着くように言ったから大丈夫でしょう」
彼らも馬鹿ではない。ここで騒いだところでどうにもならないことはわかっているはずですからね」
後は、冷静に行動できるかどうかではないか。
カナードがいるから、その点は心配していない。
「ならば、後は私たちの方ですね」
マルキオはかすかに笑いをにじませた声でそう言ってくる。
「さて。私の言葉に耳を貸してくださるかどうか」
それが問題です、と彼は続けた。
「大丈夫でしょう」
プラントにしても、ナチュラルをすべて滅ぼすことはできないのだ。だから、とミナは続ける。
「耳を貸してくれるものは、必ずいます」
ミナのこの言葉に、マルキオもうなずいて見せた。
同じ光景をオーブで見つめている者達もいる。もちろん、その思惑は一つではない。
その一人にそっと歩み寄る人影がある。
「ウズミ様」
耳元でささやく声に彼は視線を向けてきた。
「証拠がそろいました」
そんな彼に向けて、オーブ軍の制服を身にまとったムウがそうささやく。
「そうか」
わかった、とウズミは言葉を返す。
「なら、後はこれの決着がつくのを待つだけだな」
こちらの後始末ものそのときでいいだろう。彼はそう告げる。
「はい」
ムウは静かにうなずいて見せた。と言うことは、完全に準備が整っていると言うことだろう。
そして、塔済みは心の中で付け加える。
あの戦場には、彼の肉親がいるのだ。
結末を見届けたいと思うのは当然のことだろう。
「これで、すべてに片がつけばいいのだが」
ウズミは小さな声でそう独白していた。